掌編小説集

696.折り紙を開いて広げればそれはきっと千代紙

とある組織に乗り込んで逃げ惑う奴等ごと壊滅させたけれどもコンビナートの盲点から振り下ろされた何かを寸前で躱して蹴り飛ばせばジャストミートして角材と一緒に女を吹っ飛ばしてしまった

しまったやり過ぎたと思ったけれど倒れ込んだ女はフラフラとしながら静止するように言っても聞かずに今度は鉄パイプを振りかぶりながら向かってくるから無理矢理気絶させるしかなかった

彼女は組織の構成員ではなく組織が乗っ取った工場の元々の持ち主の娘で長年組織下にいたことで自我をブレインウォッシングされてしまい侵入者つまり乗り込んだ俺達を排除しろという命令を受けて遂行していただけで彼女自身には全く敵意が無かった

敵意は無いことが分かったもののブレインウォッシングが深く入り込み過ぎていて彼女と意思の疎通があまり取ることが出来ずにこちらを見てくれることも少ないし気が付けばそっぽを向かれている

ある日病室に行けば居るはずの彼女が居なくて逃げ出したのかと思って仲間と探せば中庭に一人佇んでいて何をしているのかと思えば空を見上げていて視線を辿ればそこには虹が出ていた

ああそうか彼女はこちらを見たくない訳でもそっぽを向いている訳でもなく病室の窓から見える空を見ていたのだと理解して少し肌寒いから風邪を引かないようにとしばらくの後に声をかけて病室へと戻る

しかしながら別件で追っている今回とは別の組織が使った爆弾を作ったのが彼女であった為に暴騰した技術力をその組織だけではなく他の組織にも狙われる可能性を考慮して監視という名の保護を目的として俺達と一緒に住むことになった

あれから少し経った今では表情はまだまだ変わらないものの俺達の言うことを聞いてくれたり返事を返してくれたり俺が料理をする過程を興味深く前のめりにじっと見るまでに感情や動作が俺達の目に見える形で出てきてくれているのはとても良い傾向である
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