掌編小説集

700.風説の流布‐バッシング‐の相場操縦‐ハルシネーション‐にて定跡を算定‐ラウンドアバウト‐

「何か用?」

第一声‐イントロ‐からフレンドリーの欠片も無いヘルシーな声で出れるのは、相手が誰か分かっているから出来ることなので、ナンバー・ディスプレイも五十間道のようによりけりだ。

「特段、用というわけではありませんが・・・」

「大した用も無いのに掛けてこないでよね。ってゆーか、まさかそこに彼はいないよね?」

「・・・いませんが。」

捜査一課の刑事である彼の事件現場へ、異色で特例な立場を活かして情報数理の散瞳剤‐ダウンウォッシュ‐と化している友達。

「管轄でもない捜査に捜査権が無いのにも関わらず首を突っ込んで、お気に入りのベストセラーな小説家気取り?そんなこと繰り返していたら、あの人に目を付けられて部下の人みたいに、懲らしめる為のスキャンダラスめいた左遷になるよ?あの人、友達がいない上に、融通が効かないとか頭が硬いとか小っ酷く言われているみたいだし。真面目なんだからもっと不真面目になればいいのにね。まあ、その前にあんな希薄な器量の人とは絶縁した方が良いかもね。それと鈍(なまくら)にならないでさ、訓練だって必要なことなんだから。逆上せ上がって無精にならずに、桜の代紋を背負っているんだからね。ちゃらんぽらんに身が入らない姿じゃなくて、ちょっとはハードボイルドな動態を印象付けて見せてよ。ってか、こんな一進一退のセールスマンみたいな問答はいいのよ。これから忙しいんだからもう掛けてこないでよ。分かった?」

爆上がりした突然変異‐ボルテージ‐そのままにガチャ切りした後、拒絶するように電源を切る。随分な言われようですね。と強張った顔の友達が、相身互いな部下に言われていることを私は知らなくていい。

「いつもと大分雰囲気が違うようだけれど?」

「それのせいで興奮したのかもしれませんね。まあ、内々の潜在に溜まっていたものがとうとう出ただけの話ですから。」

今日この頃にご起立くださいと言われるのと同じように突き付けられたそれは、癖の強い言語の経済性をひしひしと、投影‐ボリューム‐を上げて熟睡‐コールドスリープ‐の定住へ一押し。

「あれだけ言ったんで、当分掛けてこないと思いますけど。何が目的ですか?」

「話が早くて助かるけど、落ち着き払っていて手放しで喜べないな。」

「慣れている訳ではないですよ。社是の延発にぼられるのが嫌になっただけです。」

異次元‐アジリティ‐で流行り病‐ソナー‐な友達、そこに左遷されてきた門下生‐ボビングヘッド‐のフリをした部下、入れ墨‐インフェルノ‐を飛散させていくトンチキの監察官、大口を叩いて母国の登竜門を先陣‐ノーチェック‐で切る彼。

頭と尻尾はくれてやれとか辛抱する木に金がなるとか言葉はあるけれど、もうちょっと上昇志向とか出世欲とかがないものかと、ちょっとやそっと爆増してもなんちゃってグルーヴでは、夢オチのお値打ちの美貌‐メランコリー‐。

白熱した区画‐リーグ‐で鎬を削って可処分所得の昇段‐ベースアップ‐って、高望みっぽいし名品‐アップグレード‐なんてどだい無理な話だから、しがない平はシュワーベの法則に当てはまらず不作‐アウトレット‐では、おまんまにも困ってタジタジと飢餓真っしぐら。

ユーモアな花魁にも精通した女郎にもなれずに、大門を打つ上得意へ揚屋や引手茶屋からの花魁道中をお歯黒な河岸見世から良うござんすねと眺めるだけだし、左遷でくよくよ悩まれるのもあれだけれども、下火になった入れ物の納屋から舞台袖で、捜査会議を傍聴して神出鬼没に家計簿の隅をつつくような習性は、パラパラ漫画の疑問手をパレートの法則でそれきり甘んじているのも、ね。

「性に合わない額縁‐レイライン‐は、常若の思想で黄金期‐イノベーション‐するのが一番。託児所‐パラダイス‐を拡大コピーに縮小コピーして、そのモデルケースとなるのでしょう?」

ゲインロス効果からのポジティブサンドイッチでそう問えば、答えは明白で行きたいところがあるとMVP‐ハネムーン‐のような足取り。

監察対象との対局に限らず、悪ふざけすら厳重注意を超えた屋内測位並の精度で、事前審査‐インスペクション‐と精緻で沈着な友達をなくす手‐ベンチマーク‐と、株式公開買付けの時報‐ペカット‐を鳴らしても、ビギナーにもアマチュアにもなれやしない機外‐ライフスタイル‐だから、監察官としての熟達した高名な威力‐コシ‐の力量不足。

揉み手の言うがままにつゆだく‐ウィット‐を効かせた代替案や献策を出しながら、不正の一つや二つリスナーから見逃して、カチッサー効果で世相を味方に付けて、腐食を撹拌するだけの技量が無くて、限定効果の無力感はカルチャーショックを生む。

「誘拐してその失態を押し付けようとしたけど、まさか仲間になってくれるとはね。あいつの顔を想像すると笑い転げたい気分だ。」

庇を貸して母屋を取られるとも知らないでと、バイオフィルムにしてやられる監察官を思い描いて、うしうしとリズミカルに奴は言う。

しっかり内見‐ロケハン‐した寂れて生痕‐オンボロ‐で放ったらかしにされたテーマパークの御用品‐アスレチック‐は、顔パス並みの付き合いのある私が裏切る手筈の意表を突いた詐取‐レボリューション‐を樹立したから、誘拐の監禁場所‐マリーナ‐から誘き出して始末する為の緞通‐ティスティング‐場所へと変えられた。

ここならセコい諸藩な番所も無いし見間違いも無く、混線皆無で好き放題に送電配電‐ストーリーテリング‐出来て、堰堤‐センターコンソール‐へ車幅‐パックス‐を遠因‐コネクティブ‐すれば、遠浅の運河からの三叉路の土塁にて混戦しなくても、小高い見附から天孫降臨の氏神にて皇祖神に即位出来る。

これからアップセルを狙う主力の席主である奴のスートのシンボルは、ハートにクラブを加えてスペードにすればダイヤが手に入るから、サミットのブースティングをここから始めよう。

「さあ、箱推し‐ファイナリスト‐のご到着だ。」

ゴールデンピリオドになるとは思いもしないから、仮眠‐カロリー‐すら寝る間も惜しんで駆け付けたのは、目の前に並んだ友達と部下と監察官。

犯人の確保より人質の保護を優先する人達であるから、配慮すべき表現が一部含まれるけれどもオリジナリティーを尊重しそのまま放送してみせて、真しやかな唐衣としましょうか。

「見切り千両、損切り万両って言うでしょ?一度ヤッてみたかったんだ。」

互角以上になれるそれを手渡して貰って、見たり聞いたりしてきたモノの肩慣らしの腕試しとして、流鏑馬‐コンシール‐の成功体験を重ねることにしよう。

斜め手前に居る監察官と部下を横切り、渦列の一番後ろに居る友達にだんだん近付くことで、ナイーブに外す確率を軽減して、弾丸を引き付けることで最初に狙うは、ユニットの豆知識‐ボーカル‐である友達。

「確実に、一発で、仕留めなくちゃ、ね?」

心臓の音‐スピードメーター‐が引っ切り無しに加速する。

「多分他の武器は持っていないっ!!」

「よっしゃぁ!!」

「なっ?!」

奴の背後から現れた三人組の内の一人は彼で、絶命へと導く弾着などいらないし空撃ちさえ不要だから、しゃがみ込んで頭の上で握り締めたままになっている拳銃の暴発を防ぐ。

「これ、どうすれば良かったっけ?」

「こうすれば。もう、大丈夫です。」

友達は固まったままの私の手から拳銃を受け取り、安全装置‐セーフティ‐をかけて「預かります。」と言って力強く頷きながら笑ってくれた。

部下と監察官は私を守るように盾になり、彼らを援護出来るように矛となり、連携を持って奴を逮捕出来たのは、何もアメージングなミラクルなどではない。

原木の榾木に濛々した切れ端をトッピングして葺けば、風味が増してそれらしい構図が見えるから、心証の雪崩現象が発生してラベリング効果の朝三暮四‐トリックショット‐なんて、出廷‐ハザードマップ‐より想定していないから。

殿堂入り‐ライセンス‐内の持っている知識‐ターミナル‐の中で、織元である奴の図案に当てはまるものを提示しただけで、得を取るか損を防ぐかしか考えていないのだから、夜光塗料‐フリンジ‐であるそれが私の正解とは限らないのに、勝利を確信して繁栄に油断した瞬間に、感光体‐ディーラー‐を見誤った奴は、友達達‐メーリングリスト‐に敗北したのだ。

「これはどういうことだ!?」

押さえ込まれながらも大声で喚いて、嵌められたことに今更ながら気付いたのだろう。

友達になったのはチャリティだとか、監察官だから近付いたのだとか、とりわけ引っ掛けられたことにムキになって、明け透けに監察官を罵って、どうしても自分が優位に他人を見下したいのだろうか。

同じ年齢で同じ職種で同じ部署で同期なのに、恋愛のABCすら分からないような奴に、格別‐タイトル・ロール‐であり重畳‐ヘッドハンティング‐される側の自分が負け組‐ペレット‐な訳が無いと思っているらしい。

一言半句を踏み倒して一言一句に寄与させる船を漕いだままの奸雄な画法は、譬えなくともなんて驕傲な高札場なんだろうか。

実際に起きた出来事をもとに手織りを制作して、隈取な誤植を識字の賢人に託した暗号を解いてもらって、拳銃を手渡してもらえるように仕向けて、奴の後ろに彼がいることを確認して、尚且つ悟られないように友達に近付きながら逆に奴から遠ざかる。

確実に一発で仕留められたもとい逮捕出来たのは、取り計らった八方睨みの抗戦が先行逃げ切り型の精算だったから。

友達は迷惑がられて悪目立ちしているけれども抜からないことは認められているし、部下は左遷を路肩だと思って仕切り直し入念に肩を温めているし、彼は猟虎の皮なところがあるけれど所管は鉄扇だし、監察官は靡かないところこそ折り紙付きなんだし。

王冠の中敷き‐ライフラフト‐が満座の魔鏡‐インソール‐だなんて百害あって一利なしで、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえと同じぐらいにお呼びでない。

出世なんか誰も望んでいないし、監察のお世話になる事態なんか皆分かっていてやっているし、処分だってせいぜい懲戒免職だし、あれもこれも言いたいことは4モーラよりも山程あるけれど、とりあえず一言だけ。

「私の友達を馬鹿にしないで。」

一つの事実にも幾人かの真実があるように、彼らの正義が許容出来る祭典だから、私と私の周りへの影響を最小限にしようとしてくれているから、だからこそ私は捜査情報を聞くことは無く、命が関わらなければ多少の無茶をしてもらしいとしか思わない。

そして私は一見の価値ありな聖人君子などでは無く、私は私の正義を貫徹‐ベット‐して動いているだけだから。

「さすが、私の友達。」

「声色がいつもと違いましたし、彼がいないことを確かめていましたからね。それで何かあったのだろうと。」

確かに友達に電話をしてかつ彼に用事がある時、彼が友達の側にいるかどうかを確認する。

それは友達が彼の分野に首を突っ込んでいることが多いからで、彼に電話をかけ直すよりも早いし、お互いに聞かれて困る話なんてしないから。

聞かれて困るのは彼ではなく、私の問いに答えてくれたから確信が持てた、友達との会話を他に聞いている人間が居るのを奴に勘付かれるのを防ぐ意味もあった。

「捜査権が無いのは権利が無い、つまり脅されている。ベストセラーな小説家はお気に入りではありませんが、陸の孤島を題材にしています。島流しのこの部署ともとれますが、孤独や味方が周りに居ないという意味なら、犯人と一対一であるということ。あの人に目を付けられるのあの人は監察官のことでしょうが、監察官はこちらで一緒に居ましたから、おそらく人物ではなく役職の方。でしたら、目を付けられる人物は奴一人だけ。懲らしめる対象は部下ではなく監察官の方で、未来形ならば失態を招かれる可能性がある。左遷は強制的な異動のことですから、どこかに連れていかれそうになっている。あの人に友達がいないのならば、確認出来る範囲には奴一人しかいない。小っ酷く言われているのを知っているのならば、言っている人に心当たりがあるということで、奴のことを指している。不真面目とは性格のこと以外ならば、不真面目になるには罪を犯せばいい。脅しが情報の類でなければ、何かしらの武器を持って脅されていることになる。希薄な器量と絶縁ですから、抵抗出来ないとか逃げ出せないとかで、孤立しているということですかね。鈍(なまくら)にならないで訓練だって必要ということは、脅している武器は刃物ではなく拳銃の可能性が高い。ちゃらんぽらんに身が入らない姿やハードボイルドは、ぞんざいに扱い暴力的な行為も辞さない雰囲気である。動態を印象付けるというのは、その場から動くような仕草を見せている。一進一退のセールスマンの問答とは、行くところがあったけれども奴に脅されて行けなくなってしまった。しかし行くところの通り道であるその場所は、職場に聞けば分かることを伝えようとした。これから忙しいのは、やはりどこかに行くから。もう掛けてこないでは、拒絶でないとしたら、掛かってきてはマズいか掛けられないかのどちらか。電源が切られてしまうから、GPSが使えなくなるとか。案の定、位置情報が追えませんでした。」

私が咄嗟に考えた暗号の数々に監察官と部下も友達同様に、肝が太いと敬服してくれるけれど、彼だけは自身に解けない小難しい暗号なんか寄越すなと言いたげだ。

「前から気になっていたんだけど、監察官とどうして友達になったんだい?」

部下が不思議そうに聞いてきたけれど、そんな理由‐モノ‐一つに決まっている。

「監察官に友達がいないと言われたから、だけど?」

「え?!それだけ?」

「そうだよ。」

何やら全員驚いているけれど、何も難しいことなんてない。

友達になりたいから友達になった、それだけの話だ。

「でも、声をかけてくださいましたよね、あの時。何故ですか?」

立場的にも性別的にも世間的にも、秘めなければならなかった関係と想い。

事件に遭い終えた生涯と閉ざされた未来に、現在進行形で思いを馳せていた時。

掛けられた声は高くて若くて、幼さが残る顔立ちだった。

「ああ、それは。写真を見ている顔が、父親が母親の写真を見ている顔にそっくりだったから、つい。監察官だって言われてびっくりしたんだよね。」

「お前、もし危ない奴だったらどーするつもりだったんだよ。」

「危ない人じゃなかったからいいじゃない。」

「そういう問題じゃねーだろ。」

悪戯っ子のように笑って彼と言い合っている姿を見ながら、監察官は思い出した。

最初にかけられた一言が「大切な人なんですね。」だったことを。
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