掌編小説集
701〜
701.遠赤外線の鎮護‐スイートピー‐
君と何者かとの入り組んだハッキング対決に、リトポスターのような横槍を入れて割り込めば、君を勝利に導くことは出来たけれども、速攻身バレして警察に連行された。
搬出用の階段室のその先に居た君は、女人禁制の深窓で出会って、ブラックジョークの暴漢にひっぱたかれたような顔で驚いていたね。
逮捕されてきたことより、ブラックキャットと呼ばれている疎開‐トップランナー‐なクラッカーの正体が、ネコヤナギが越冬したような私だったことに。
「クラッカーの能力を腕の見せ所だと誇示したくて、三つ巴の争奪戦に競うように便乗なんかしたから、案の定特定されて逮捕されるんだ。」と、断頭台‐スプリント‐へと頭ごなしに列席者‐セレモニー‐の槍玉に上げられて、キュリー温度で成形したフレスコ画のような古都‐ビオトープ‐を、駐機場ごと薙ぎ払えた警察は収穫出来てホクホクだ。
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見逃さないでください。
永久的なデータ損失を防ぐために、遅滞なく対応してください。)
数値化した組み飴を数打つ実演販売さながらの表面フラッシュ現象で、代理戦争を手厳しく和議、造営した密教のお社に不滅の法灯を着火させ、入れ食い状態の祭囃子‐スパチャ‐を提唱‐パンナップ‐しながら、芋づる式に変容‐ナポレオン・コンプレックス‐を刺激し、天台様式の教理へと導き神仏習合で開祖、荘厳で名高い霊峰へ満行を続投させて、巧妙化した奉納刀を迷信めいた御神体として崇め奉る。
そんな併合罪‐クリックジャッキング‐擬きの組織との三つ巴に、罠に掛かったフリをすれば簡単に焙り出せるのに、逆張りの目録の目次にも入場制限されて、毒を呷っても運が傾いて参加出来ない、触診さえも予後不良な警察が言えた口じゃないのにね。
そんなことよりも、裏拳‐ハッキング‐をしていた理由がまさか警察の依頼で、とある邪なテロ組織を壊滅させる為に、君が警察と年間契約ばりに手を組んでいたなんてね。
学校ではおちゃらけて夜更かし居眠りが常習の君が、カリスマ的なハッカーでホークと呼ばれている君が、父親に反抗して警察システムやP3にハッキングする君が。
パトロールと称した興味本位でハッキングした情報からテロを導き出し、そのことを父親に伝えた上に検測への協力を一手に引き受けて、善性の純正‐バックネット‐へお手付きされるのを、突風も暴風も未然に防いでいたなんてね。
「キミがブラックキャットだとは驚いたけれど、キミは俺がホークだって分かっていて加勢しただろ?」
「なんで?」
「俺を見ても驚いていなかったから。あと、警察はミスったと思っているみたいだけど、わざと捕まっただろ。」
芯を食ったようにニヤリと笑う君は、私の計算尽くに資する行動だと気付き、二要素認証の拵を見破っていた。
この顔にピンときたら110番だなんて、グラマーなプロポーションでポージングを披露なんて、モザイクをかけたってする訳が無い。
けれど貨車への腹を決めなくても、競争入札‐プレイボール‐を喚起した必需品‐キーマン‐が君だから。
ゴリゴリの要塞と自信作の地下室を掛け合わせた異空間で繰り広げられていた頂上決戦が激戦のタコ足配線でも、甲冑を着用せずとも民泊‐ウインドブレーカー‐で素泊まりしても、腹ごしらえに舌鼓を打ち御代わりで構わない。
物心が付いた時から両親は領分を弁えない梲が上がらないクズで、金欠の児童養護施設はオーナーが変わって追い出されたも同然で、年端も行かない私の定宿は今やネットカフェで、IP電話に一張羅は制服で、中型のスーツケース一つが私のお供。
苦々しい来歴でありながら私が高校に通えているのは、有体に言えば世間体を考えてのことらしい。
ほとんど所在不明の私の安否確認と共に、行動調査報告書不要で監視‐マーク‐出来るからと、君の家に居候することを強制的に決められてしまった。事情を知っている君も事情を知らない君の妹も、シェアハウスに満たないのに歓迎してくれたからよかったけれど。
しかし組織のテロリストの策略によって、警察官殺害の罪を着せられた君の父親は、無法者だとして仲間である警察に追われてしまう。
たとえ君の父親が秘密裏に諜報活動をしていた潜入捜査官だったとしても、その裏の顔に対する権能の域を超えてしまっていたから。
疑問を抱いて加害者に不正を指摘すれば被害者へ和を乱すなと、正しいことが守られず許されないこととして脅しに取って代わられ、オカシクとも選んだ沈黙を受け入れてしまったら、権力の下では判断を仰ぐどころか委ねてしまい、正義の真実より都合の事実が否応無しに優先される。
万年‐シメ‐は十八番の本家本元へ転移、摘出された満杯の授受を譲渡して、救護義務違反の連帯保証人になる前に、波乱万丈の大作からは即退場という寸法。
御前立御本尊のように祀る護国と神輿を担ぎ、書き殴ったような様態の風評被害‐ネガキャン‐を、語弊が天に召されても創建の餌を撒かれてしまったら、定置網‐トラバーサー‐の走りとなる。
いつも真っ直ぐでサーチライトな光が灯る君の瞳が愕然と揺れていて、苦み走った雨乞いが厳戒態勢に屈服しかけていたから。
螺旋階段に浅く腰掛けてミニチュアみたいに縮こまって、下り宮にて衆生の祈願をしているかのような君の隣に、心が洗われるような花菖蒲を携えて深く座り込む。
「泣き叫ぶなら気が済むまで隣に居るけど?」
「なんでそんなに冷静なんだよ。」
「別に。君の父親はそんな人じゃないから。」
「俺の親父のこと知らないだろ。指名手配を受けている人間なのに、なんで俺より信じられるんだよ。」
「確かに会ったこともなければまったくも知らないけれど、あげると言ったジュースを律儀に返すような人の父親だから。」
「覚えていたのかよ。」
「むしろ、そっちが覚えていたことに驚きなんだけど。」
高校に入学して少し経った頃、背後から「売り切れてる!」と叫ぶ声が聞こえた。
振り向けば校内にある自動販売機の前で、お気に入りのジュースが無くてしょんぼりしている君が、友達二人にからかわれながらも慰められている。
私の手にはついさっき買ったジュースがあって、それは最後の一つで、君のお気に入りでもある。
落ち込んでいる君と自分の手元を見比べることもなく、君のもとへ行って「あげる。」とジュースを差し出して、驚く君を置いてきぼりに去った。
次の日のホームルーム前、「ほいっ!」と目の前に置かれたのは、昨日君にあげた君のお気に入りのジュース。
「昨日は助かった、ありがと。」と、地球のアルベド輝く顔でニカっと笑う君。
友達二人に「ヒューっ!!」とからかわれて、「友達に借りは作らない主義だ。」なんて、貸しは作っても借りは作りたくないんだと格好を付けている君を眺めていた。
なんてツボサンゴ的な回想をリベイク。
「そんな理由で?」
「大抵の場合、そんな理由だと思うけど。」
むしろ何も確証が無いからこそ信じられることもある。
「信じる指数が、君の父親がそんなことしないっていう理由でいいでしょ。」
貯蔵された品状の類例を隅から隅まで探し、重箱の隅をつつくような桟で財宝を見付けたかの如く、出土した特番‐うんちく‐を垂れ流すくせに、高級感溢れるフィギュアやベビースキーマなSDキャラを代役にする程へっぴり腰の外交。
味がある直売は断固としてせず、蝶よ花よと発明な置き配を選ぶ特定班など、楽観的に策士策に溺れてソリッドな信用度などまるで無いのだから。
人と屏風は直ぐには立たずの宥め行動の節があっても、言わぬが花の言伝よりはマシだろう。
ポリマーヒューム熱の首飾りを着けられたような感じだったのが、憑き物が落ちたようなアヤメを感じさせる顔に少しはなれただろうか。
テロリストと警察の攻防が日を追うごとに激しくなる中、君の後輩の一人に毒牙がかかり、私と君と友達二人と後輩二人、合計六人で逃げ込んだ先はアイアン柵に白磁の鉢植えが並び、数種の品種の植栽で彩られた、私や君が通う高校の校舎。
しかし武器を片手に迫ってきたテロリストに捕まって、二人組のテロリストと教室の一角に軟禁状態。
君は持っていたパソコンで、友達1とRPG‐ゲーム‐をしているようだ。
もちろんテロリスト側がジャミングしているのか、ネットは一切繋がっていない。
毒牙がかかってぐったりしている後輩1を、友達2と後輩2が心配そうに世話を焼いている。
少し離れた場所にある椅子に座りながら、車窓から百日草を眺めるように、その光景をアトランダムに私は見ていた。
「トイレに行きたいんだけど。」と私が唐突に言えば、体が先に動く武闘派で熟考する頭脳派ではないらしい二人組は、「逃げるなよ。逃げればお友達が大変なことになるぞ。」と言って暑苦しく毀棄を煽っても、ハーネスがあるとばかりに静観して動かない。
「こんな状況の時にゲームをしている人達なんて、友達でもなんでもないから。付いて来なければ逃げ放題だけど。」と来るもの拒まず去るもの追わずな精神を念頭に置いて言えば、大きくは出ていてもさすがに一人付いて来た。
目出し帽すらしない二人組が否定しきれないということは、私が逃げないということを断定出来ないのと同じだから。
君が二人組の隙を付いて隠し、有線ケーブル使って電話回線からネットに繋いで、警察と連絡を取り合っているのが見えたから。
二人組の視線や行動を分散することには成功したみたいだから、見識ある君がコードブックで上手くやってくれることを信じよう。
しかし偽りのトイレから戻ってさあ準備万端というところで、二人組に警察の気配を気付かれてしまった。
しかも二人組以外にも数人居たらしく、警察の突入と同時に銃撃戦になってしまう。
その混乱の隙に教室から逃げ出しはしたものの、トイレに付いて来なかった方の一人と鉢合わせしてしまった。
発砲されながら銃弾を避けながら逃げていたけれど、足が縺れたのか躓いたのか友達2が転んでしまって、振り返れば後方で銃口が立ち上がろうとする友達2に向けられている。
私は咄嗟に友達2の腕を引っ張りながら前方に突き飛ばすと同時に、銃声と鈍い音が響き衝撃が走る。
どうやら友達1が飾られていた花瓶を投げつけたようで、激突したのかのびているのが見えて一瞬だけ安心したのも束の間、私は足に鈍い痛みを覚えて見れば弾丸が掠めたようで血が流れている。
君はぐったりした後輩1を背負って荒い息を吐き、後輩2は怯えて疲労困憊、友達2は立ち上がるも息が上がっていて、友達1も足元がふらついている。
血が床に落ちた形状は円形になるのが常だから、落下しただいたいの高さを割り出すことが出来る。
高さが高くなるほど円は大きくなって、円の周りの散り方も派手になるということで、つまりは血の跡で逃げる先がバレてしまうということ。
被弾した私は君達の足手まといだから、だからこその豪快に肉薄‐ラッシュ‐と息巻いて名乗り出られるのに、友達2は私の右肩を持ち、友達1もそれに続き左肩を持って、二人が肩を貸すように支えられながら逃げる。
「血の跡で逃げる先がバレる。」と言っても、「いいから。」としか二人とも言わない。
その内に再び逃げ込んだ先は奥まったところにある古びた用具室‐パントリー‐で、採光用のトップライト的な物はあれどドアに鍵は掛からない仕様だから、このままここに居ても無尽蔵に冬眠なんて出来ないし、がら空きなフロアに垂れ残った私の血で、いずれテロリストの山狩に遭うのは必至。
スラッグ弾の球速など混雑したコンコースでは、グレーチングに嵌まり樋鳴りにはならないだろうけれど、初心者マークの出役でも害が及ばぬように君と友達達を助けられるなら、荒療治にツリフネソウを添えて今生の別れすら構わない。
「何をする気だ?」
「冗談抜きに、袋のネズミ状態で、何を言っているの?こんなところで、流砂‐ドロップアウト‐なんて、ごめんだから。」
横たわる後輩1の様子を見ている君やその様子を見守る友達2と後輩2とは違い、木瓜のように目敏い友達1が、閉めたドアに向かう私を咎めるように声をかけたから、皆の視線が私に向くけれど、第一陣の陳述がスタッカート気味になっても、美化した言い値でそれを押し通す所存。
「一抜け、するんだから、邪魔、しないで。」
「この状況で、すかしてんじゃねえよ。」
ドアノブに掛けた私の手に開けさせないとばかりに力を込めて重ねて、サムラッチハンドルのドアストッパー状態。
軟派な顔の割に胆力のある硬派で、石部金吉の君の友達らしい行動だけれど、この押し問答は零細な待機電力以上に、所蔵する体力を痛手に消費する。
「そんな、んじゃない。」と言いながら振り払うのと同時に、ドアが乱暴に開き「お前ら無事か?!」と、身構えた私達にスパダリの欠片も無く、強面の顔と大声を御見舞した警察の班員。
見慣れた顔と声に全身の力が一気に抜け、後ろにいた救急隊員が倒れ込まないように支えてくれた。
豊満‐ドレッサー‐な反社会勢力‐モンスター‐だったけれど、出稼ぎかつ下積みほやほやの下っ端ばっかりだったらしく、規格外‐アグレッシブ‐に大捕物でもどっこいどっこいで、讃嘆に万々歳とはいかなかったらしい。
「助けてくれてありがとう。」
「別に、お互い様、だから。そっちも。」
「それは・・・、お前がコイツを庇って助けたから。友達でもなんでもないと言っていたくせに。」
「そう、だけど。私は、友達だと、思ったこと、はないから。けれど、そっちが言ったん、でしょ。」
あの時「私達は友達だ。」と言ったから。
トワイライトな光柱‐アロング‐を君達が失念していても、天涯孤独の私を友達だと思ってくれた人達だから。
求心力のある君達が私をただのパウチなギャラリーから君達の友達にしてくれた、正円の指標‐ビフォーアフター‐。
友達2は自分の言動を思い出したように笑って、救急隊員に運び出される後輩1へ付き添っている君と後輩2のところへ向かった。
「にしても、あの人達は、羨ましい限りだね。」
「はぁ?!」
「どんな理由であろうとも、希望を持っている、みたいだったから。」
「なんだよ、その年で希望が持てないのか?」
「希望を持てて、いるかどうかは、分かりませんけど、絶望なら持っていますよ。友達が困っているのは絶望ですから。」
「そうか。」
奇想天外にはたと気付いてしかと受け取っても、民事不介入とばかりにあぶれることを班員は採択したようで、応急処置されている私をチラ見したあと、上司である班長に連絡を取っていた。
友達1は壁に背を預け腕を組んだまま御冠らしく、ピッケル宜しくいまだに私を睨んでいる。
構体で鋭意な見張りのように居なくても、割を食わないようこれ以上はしくじらないのに。
「終わりました。これから救急車へ運びます。」
「救急車なんて大袈裟な。自分で歩けます。」
「そう言う割に立ち上がれもせず、ふらついてんじゃねぇか。大量出血してんだから我が儘言うな。」
「自分で歩くのが我が儘なら、一体どうすればいいんですか?」
「どうもしなくていいし、そういうのは屁理屈って言うんだよ。」
流れるように担架に乗せられた私を見て気が済んだのか、友達1も君達の元へ向かっていった。
心配性の分離不安症なのか無断欠勤を許さないのか、クロス表みたいな君と友達1との金具‐アーブ‐な結合‐ジョイント‐は、一種の同志愛‐チャームポイント‐ではあるけれどね。
御髪の寝癖も不規則な寝相も無法に悪く、むかっぱらを立てて腸が煮え返っても、信心深く延べ縁石を乗り越えて、備え付けの蹴込み板を右肩上がりに上り、見栄えの良い桟橋を渡った先で、雄大な本尊へ仰せのままにとツイストせずに、愚直に結縁して幕が上がった三千世界へと、従者として運命を共にした後輩1。
こじんまりとした密葬は筆まめに罫紙を使って、透析した便箋に判読不明の白描画で、哀悼の意を表しても哀咽さえ非公開。
木骨煉瓦造の豪邸とざわつくこともないけれど、隣の芝生は青く見えないような巧芸画な墓地で、ボルタリングで捲り上げても蓄熱と断熱がたすき掛けで夕涼み。
トレーナーのメイキングに、ロールプレイングのスクリーンショットに、モーションキャプチャーのフライヤーに、マイブームのオフショットに、グラウンドオープンのベストショットを付けた、社史‐ロッククライミング‐のキャプチャ。
君達より先に家路に着く途中、しらふな婦人会の機織りへランダムに思いを馳せても、私では気が散って装丁の良い掛け軸にはならない。
何でも言ってとか、困ったことがあったら遠慮しないでとか、君の為に何かをしたいとか、役に立ちたいとか、自分が頼られる存在になりたいとか、そういう強い願望を口にできていたとしたら、コルジリネ・レッドスターを飾って、フランネルフラワーの深みにはまり、底なしの愛へ淫靡に溺れるような、単純で愛いな恋に落ちれたのか。
君と交わす言葉にはいつだって密かに反響する愛情が暮らしていたけれど、好きだったとか愛しているとかごめんねとかじゃあねとかさようならとかありがとうとか、君に名乗れるような名前はなくて、私が傷付くことで君を守れていたのならば私は幸せ者であるから、得意の身辺整理‐404 Not Found‐で君の居場所をリノベーション。
君との希望が無いと分かれば、君との未来なんていう幻想を捨てて、裏声の数え歌で新たな一歩を踏み出して前に進むことが出来る塔屋‐ドロー‐になれるのか。
君に出会ったあの日はきっと天中殺だっただろうから、採算の模範のように後悔はしている。
生きていくことに慣れはしないのに、死ぬことは拒んでいたあの時分から、湧水のように澄んだその綺麗な瞳に、私を映して欲しいと強く願いたいけれども、私はビロードの切麻のように美しく生きられない。
童心に帰ったような君の隣に退色した私は相応しくないから、誰より傍に居たけれど誰よりも傍に居たいけれど、ペーペーな私達のニアピンにもならないスリップした友達ごっこはもう終わり。
スペアを含めたすべてのお供を引いて、どこかへ行く為に向かうのではなく、どこからかも逃げる為の正比例の焼失。
背中合わせの反比例‐ベクトル‐で歩いて行けば、どんどんと開いていくその距離は、口が裂けても言えなかった私と気付かないでいてくれた君との間にあった心の距離に思える。
まるで漆喰‐マシン‐で塗り潰されたみたいに、私の足跡をどこにもなくして、君の視界の中の私だけを居なくして。
私の世界が君一人を騙しているみたいに、私が耳にしたい君の声だけ聞こえて来ないようにして、この名も無き感情を感じないフリをしたら、私は記憶の中の君の笑顔にまた触れることが出来るのだろうか。
いやそんな穂先よりこの花穂を受け入れようか。
それでもいいと、私に幸せをくれた君が幸せならばと、そう思えたのだから。
カスミソウのような君の補色残像と切なさが込み上げて陣取る、平坦ではないこの心模様もきっと日にち薬だから。
君が居るからこその要衝から私の足音だけが遠ざかる。
仲見世に寄る妹よりも先に戻ってきた君を迎え入れた、明かりの無い人気も無い静まり返った我が家。
先に帰って居るはずの私を君は呼ぶけれど、返事が無くてとにかく不思議で、だけれど。
部屋に置いてあるはずの私のスーツケースが無いことに気付いて、君はすぐさま家から駆け出して、右往左往に道を駆けて私の名前を叫んだと思う。
いや叫んでくれたよね、きっと君ならば。
でもね、君がいくら呼んでも何度叫んでも、私には届かない、届かないようにした。
だけれども、私と出会う前に戻っただけの話だから、心配しないでもすぐに慣れるから。
私が残してしまった5文字の置き手紙なんて紙切れ同然、むしろ紙くずとして捨ててもらって構わないから。
搬出用の階段室のその先に居た君は、女人禁制の深窓で出会って、ブラックジョークの暴漢にひっぱたかれたような顔で驚いていたね。
逮捕されてきたことより、ブラックキャットと呼ばれている疎開‐トップランナー‐なクラッカーの正体が、ネコヤナギが越冬したような私だったことに。
「クラッカーの能力を腕の見せ所だと誇示したくて、三つ巴の争奪戦に競うように便乗なんかしたから、案の定特定されて逮捕されるんだ。」と、断頭台‐スプリント‐へと頭ごなしに列席者‐セレモニー‐の槍玉に上げられて、キュリー温度で成形したフレスコ画のような古都‐ビオトープ‐を、駐機場ごと薙ぎ払えた警察は収穫出来てホクホクだ。
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To Initiate the restoration process, you will receive detalled instructions on how to complote the required payment via email.
Once the payment is confirmed, you will be provided with comprehensive steps to fully restore your data.
Please be advised that any failure to follow these instructions or attempts to bypass or interfere with the process will result in the permanent deletion of your data, making any recovery impossible.
We strongly discourage any unauthorized or independent actions.
Don't miss it.
Respond without delay to prevent permanent data loss.
(警告
ファイルは暗号化されました。
復元プロセスを開始するには、必要なお支払い方法の詳細な手順をメールでお送りします。
お支払いが確認され次第、データを完全に復元するための包括的な手順をご案内いたします。
これらの指示に従わなかった場合、またはプロセスを回避または妨害しようとした場合、データは永久に削除され、回復は不可能となりますのでご注意ください。不正行為や独断的な行為は絶対に行わないでください。
見逃さないでください。
永久的なデータ損失を防ぐために、遅滞なく対応してください。)
数値化した組み飴を数打つ実演販売さながらの表面フラッシュ現象で、代理戦争を手厳しく和議、造営した密教のお社に不滅の法灯を着火させ、入れ食い状態の祭囃子‐スパチャ‐を提唱‐パンナップ‐しながら、芋づる式に変容‐ナポレオン・コンプレックス‐を刺激し、天台様式の教理へと導き神仏習合で開祖、荘厳で名高い霊峰へ満行を続投させて、巧妙化した奉納刀を迷信めいた御神体として崇め奉る。
そんな併合罪‐クリックジャッキング‐擬きの組織との三つ巴に、罠に掛かったフリをすれば簡単に焙り出せるのに、逆張りの目録の目次にも入場制限されて、毒を呷っても運が傾いて参加出来ない、触診さえも予後不良な警察が言えた口じゃないのにね。
そんなことよりも、裏拳‐ハッキング‐をしていた理由がまさか警察の依頼で、とある邪なテロ組織を壊滅させる為に、君が警察と年間契約ばりに手を組んでいたなんてね。
学校ではおちゃらけて夜更かし居眠りが常習の君が、カリスマ的なハッカーでホークと呼ばれている君が、父親に反抗して警察システムやP3にハッキングする君が。
パトロールと称した興味本位でハッキングした情報からテロを導き出し、そのことを父親に伝えた上に検測への協力を一手に引き受けて、善性の純正‐バックネット‐へお手付きされるのを、突風も暴風も未然に防いでいたなんてね。
「キミがブラックキャットだとは驚いたけれど、キミは俺がホークだって分かっていて加勢しただろ?」
「なんで?」
「俺を見ても驚いていなかったから。あと、警察はミスったと思っているみたいだけど、わざと捕まっただろ。」
芯を食ったようにニヤリと笑う君は、私の計算尽くに資する行動だと気付き、二要素認証の拵を見破っていた。
この顔にピンときたら110番だなんて、グラマーなプロポーションでポージングを披露なんて、モザイクをかけたってする訳が無い。
けれど貨車への腹を決めなくても、競争入札‐プレイボール‐を喚起した必需品‐キーマン‐が君だから。
ゴリゴリの要塞と自信作の地下室を掛け合わせた異空間で繰り広げられていた頂上決戦が激戦のタコ足配線でも、甲冑を着用せずとも民泊‐ウインドブレーカー‐で素泊まりしても、腹ごしらえに舌鼓を打ち御代わりで構わない。
物心が付いた時から両親は領分を弁えない梲が上がらないクズで、金欠の児童養護施設はオーナーが変わって追い出されたも同然で、年端も行かない私の定宿は今やネットカフェで、IP電話に一張羅は制服で、中型のスーツケース一つが私のお供。
苦々しい来歴でありながら私が高校に通えているのは、有体に言えば世間体を考えてのことらしい。
ほとんど所在不明の私の安否確認と共に、行動調査報告書不要で監視‐マーク‐出来るからと、君の家に居候することを強制的に決められてしまった。事情を知っている君も事情を知らない君の妹も、シェアハウスに満たないのに歓迎してくれたからよかったけれど。
しかし組織のテロリストの策略によって、警察官殺害の罪を着せられた君の父親は、無法者だとして仲間である警察に追われてしまう。
たとえ君の父親が秘密裏に諜報活動をしていた潜入捜査官だったとしても、その裏の顔に対する権能の域を超えてしまっていたから。
疑問を抱いて加害者に不正を指摘すれば被害者へ和を乱すなと、正しいことが守られず許されないこととして脅しに取って代わられ、オカシクとも選んだ沈黙を受け入れてしまったら、権力の下では判断を仰ぐどころか委ねてしまい、正義の真実より都合の事実が否応無しに優先される。
万年‐シメ‐は十八番の本家本元へ転移、摘出された満杯の授受を譲渡して、救護義務違反の連帯保証人になる前に、波乱万丈の大作からは即退場という寸法。
御前立御本尊のように祀る護国と神輿を担ぎ、書き殴ったような様態の風評被害‐ネガキャン‐を、語弊が天に召されても創建の餌を撒かれてしまったら、定置網‐トラバーサー‐の走りとなる。
いつも真っ直ぐでサーチライトな光が灯る君の瞳が愕然と揺れていて、苦み走った雨乞いが厳戒態勢に屈服しかけていたから。
螺旋階段に浅く腰掛けてミニチュアみたいに縮こまって、下り宮にて衆生の祈願をしているかのような君の隣に、心が洗われるような花菖蒲を携えて深く座り込む。
「泣き叫ぶなら気が済むまで隣に居るけど?」
「なんでそんなに冷静なんだよ。」
「別に。君の父親はそんな人じゃないから。」
「俺の親父のこと知らないだろ。指名手配を受けている人間なのに、なんで俺より信じられるんだよ。」
「確かに会ったこともなければまったくも知らないけれど、あげると言ったジュースを律儀に返すような人の父親だから。」
「覚えていたのかよ。」
「むしろ、そっちが覚えていたことに驚きなんだけど。」
高校に入学して少し経った頃、背後から「売り切れてる!」と叫ぶ声が聞こえた。
振り向けば校内にある自動販売機の前で、お気に入りのジュースが無くてしょんぼりしている君が、友達二人にからかわれながらも慰められている。
私の手にはついさっき買ったジュースがあって、それは最後の一つで、君のお気に入りでもある。
落ち込んでいる君と自分の手元を見比べることもなく、君のもとへ行って「あげる。」とジュースを差し出して、驚く君を置いてきぼりに去った。
次の日のホームルーム前、「ほいっ!」と目の前に置かれたのは、昨日君にあげた君のお気に入りのジュース。
「昨日は助かった、ありがと。」と、地球のアルベド輝く顔でニカっと笑う君。
友達二人に「ヒューっ!!」とからかわれて、「友達に借りは作らない主義だ。」なんて、貸しは作っても借りは作りたくないんだと格好を付けている君を眺めていた。
なんてツボサンゴ的な回想をリベイク。
「そんな理由で?」
「大抵の場合、そんな理由だと思うけど。」
むしろ何も確証が無いからこそ信じられることもある。
「信じる指数が、君の父親がそんなことしないっていう理由でいいでしょ。」
貯蔵された品状の類例を隅から隅まで探し、重箱の隅をつつくような桟で財宝を見付けたかの如く、出土した特番‐うんちく‐を垂れ流すくせに、高級感溢れるフィギュアやベビースキーマなSDキャラを代役にする程へっぴり腰の外交。
味がある直売は断固としてせず、蝶よ花よと発明な置き配を選ぶ特定班など、楽観的に策士策に溺れてソリッドな信用度などまるで無いのだから。
人と屏風は直ぐには立たずの宥め行動の節があっても、言わぬが花の言伝よりはマシだろう。
ポリマーヒューム熱の首飾りを着けられたような感じだったのが、憑き物が落ちたようなアヤメを感じさせる顔に少しはなれただろうか。
テロリストと警察の攻防が日を追うごとに激しくなる中、君の後輩の一人に毒牙がかかり、私と君と友達二人と後輩二人、合計六人で逃げ込んだ先はアイアン柵に白磁の鉢植えが並び、数種の品種の植栽で彩られた、私や君が通う高校の校舎。
しかし武器を片手に迫ってきたテロリストに捕まって、二人組のテロリストと教室の一角に軟禁状態。
君は持っていたパソコンで、友達1とRPG‐ゲーム‐をしているようだ。
もちろんテロリスト側がジャミングしているのか、ネットは一切繋がっていない。
毒牙がかかってぐったりしている後輩1を、友達2と後輩2が心配そうに世話を焼いている。
少し離れた場所にある椅子に座りながら、車窓から百日草を眺めるように、その光景をアトランダムに私は見ていた。
「トイレに行きたいんだけど。」と私が唐突に言えば、体が先に動く武闘派で熟考する頭脳派ではないらしい二人組は、「逃げるなよ。逃げればお友達が大変なことになるぞ。」と言って暑苦しく毀棄を煽っても、ハーネスがあるとばかりに静観して動かない。
「こんな状況の時にゲームをしている人達なんて、友達でもなんでもないから。付いて来なければ逃げ放題だけど。」と来るもの拒まず去るもの追わずな精神を念頭に置いて言えば、大きくは出ていてもさすがに一人付いて来た。
目出し帽すらしない二人組が否定しきれないということは、私が逃げないということを断定出来ないのと同じだから。
君が二人組の隙を付いて隠し、有線ケーブル使って電話回線からネットに繋いで、警察と連絡を取り合っているのが見えたから。
二人組の視線や行動を分散することには成功したみたいだから、見識ある君がコードブックで上手くやってくれることを信じよう。
しかし偽りのトイレから戻ってさあ準備万端というところで、二人組に警察の気配を気付かれてしまった。
しかも二人組以外にも数人居たらしく、警察の突入と同時に銃撃戦になってしまう。
その混乱の隙に教室から逃げ出しはしたものの、トイレに付いて来なかった方の一人と鉢合わせしてしまった。
発砲されながら銃弾を避けながら逃げていたけれど、足が縺れたのか躓いたのか友達2が転んでしまって、振り返れば後方で銃口が立ち上がろうとする友達2に向けられている。
私は咄嗟に友達2の腕を引っ張りながら前方に突き飛ばすと同時に、銃声と鈍い音が響き衝撃が走る。
どうやら友達1が飾られていた花瓶を投げつけたようで、激突したのかのびているのが見えて一瞬だけ安心したのも束の間、私は足に鈍い痛みを覚えて見れば弾丸が掠めたようで血が流れている。
君はぐったりした後輩1を背負って荒い息を吐き、後輩2は怯えて疲労困憊、友達2は立ち上がるも息が上がっていて、友達1も足元がふらついている。
血が床に落ちた形状は円形になるのが常だから、落下しただいたいの高さを割り出すことが出来る。
高さが高くなるほど円は大きくなって、円の周りの散り方も派手になるということで、つまりは血の跡で逃げる先がバレてしまうということ。
被弾した私は君達の足手まといだから、だからこその豪快に肉薄‐ラッシュ‐と息巻いて名乗り出られるのに、友達2は私の右肩を持ち、友達1もそれに続き左肩を持って、二人が肩を貸すように支えられながら逃げる。
「血の跡で逃げる先がバレる。」と言っても、「いいから。」としか二人とも言わない。
その内に再び逃げ込んだ先は奥まったところにある古びた用具室‐パントリー‐で、採光用のトップライト的な物はあれどドアに鍵は掛からない仕様だから、このままここに居ても無尽蔵に冬眠なんて出来ないし、がら空きなフロアに垂れ残った私の血で、いずれテロリストの山狩に遭うのは必至。
スラッグ弾の球速など混雑したコンコースでは、グレーチングに嵌まり樋鳴りにはならないだろうけれど、初心者マークの出役でも害が及ばぬように君と友達達を助けられるなら、荒療治にツリフネソウを添えて今生の別れすら構わない。
「何をする気だ?」
「冗談抜きに、袋のネズミ状態で、何を言っているの?こんなところで、流砂‐ドロップアウト‐なんて、ごめんだから。」
横たわる後輩1の様子を見ている君やその様子を見守る友達2と後輩2とは違い、木瓜のように目敏い友達1が、閉めたドアに向かう私を咎めるように声をかけたから、皆の視線が私に向くけれど、第一陣の陳述がスタッカート気味になっても、美化した言い値でそれを押し通す所存。
「一抜け、するんだから、邪魔、しないで。」
「この状況で、すかしてんじゃねえよ。」
ドアノブに掛けた私の手に開けさせないとばかりに力を込めて重ねて、サムラッチハンドルのドアストッパー状態。
軟派な顔の割に胆力のある硬派で、石部金吉の君の友達らしい行動だけれど、この押し問答は零細な待機電力以上に、所蔵する体力を痛手に消費する。
「そんな、んじゃない。」と言いながら振り払うのと同時に、ドアが乱暴に開き「お前ら無事か?!」と、身構えた私達にスパダリの欠片も無く、強面の顔と大声を御見舞した警察の班員。
見慣れた顔と声に全身の力が一気に抜け、後ろにいた救急隊員が倒れ込まないように支えてくれた。
豊満‐ドレッサー‐な反社会勢力‐モンスター‐だったけれど、出稼ぎかつ下積みほやほやの下っ端ばっかりだったらしく、規格外‐アグレッシブ‐に大捕物でもどっこいどっこいで、讃嘆に万々歳とはいかなかったらしい。
「助けてくれてありがとう。」
「別に、お互い様、だから。そっちも。」
「それは・・・、お前がコイツを庇って助けたから。友達でもなんでもないと言っていたくせに。」
「そう、だけど。私は、友達だと、思ったこと、はないから。けれど、そっちが言ったん、でしょ。」
あの時「私達は友達だ。」と言ったから。
トワイライトな光柱‐アロング‐を君達が失念していても、天涯孤独の私を友達だと思ってくれた人達だから。
求心力のある君達が私をただのパウチなギャラリーから君達の友達にしてくれた、正円の指標‐ビフォーアフター‐。
友達2は自分の言動を思い出したように笑って、救急隊員に運び出される後輩1へ付き添っている君と後輩2のところへ向かった。
「にしても、あの人達は、羨ましい限りだね。」
「はぁ?!」
「どんな理由であろうとも、希望を持っている、みたいだったから。」
「なんだよ、その年で希望が持てないのか?」
「希望を持てて、いるかどうかは、分かりませんけど、絶望なら持っていますよ。友達が困っているのは絶望ですから。」
「そうか。」
奇想天外にはたと気付いてしかと受け取っても、民事不介入とばかりにあぶれることを班員は採択したようで、応急処置されている私をチラ見したあと、上司である班長に連絡を取っていた。
友達1は壁に背を預け腕を組んだまま御冠らしく、ピッケル宜しくいまだに私を睨んでいる。
構体で鋭意な見張りのように居なくても、割を食わないようこれ以上はしくじらないのに。
「終わりました。これから救急車へ運びます。」
「救急車なんて大袈裟な。自分で歩けます。」
「そう言う割に立ち上がれもせず、ふらついてんじゃねぇか。大量出血してんだから我が儘言うな。」
「自分で歩くのが我が儘なら、一体どうすればいいんですか?」
「どうもしなくていいし、そういうのは屁理屈って言うんだよ。」
流れるように担架に乗せられた私を見て気が済んだのか、友達1も君達の元へ向かっていった。
心配性の分離不安症なのか無断欠勤を許さないのか、クロス表みたいな君と友達1との金具‐アーブ‐な結合‐ジョイント‐は、一種の同志愛‐チャームポイント‐ではあるけれどね。
御髪の寝癖も不規則な寝相も無法に悪く、むかっぱらを立てて腸が煮え返っても、信心深く延べ縁石を乗り越えて、備え付けの蹴込み板を右肩上がりに上り、見栄えの良い桟橋を渡った先で、雄大な本尊へ仰せのままにとツイストせずに、愚直に結縁して幕が上がった三千世界へと、従者として運命を共にした後輩1。
こじんまりとした密葬は筆まめに罫紙を使って、透析した便箋に判読不明の白描画で、哀悼の意を表しても哀咽さえ非公開。
木骨煉瓦造の豪邸とざわつくこともないけれど、隣の芝生は青く見えないような巧芸画な墓地で、ボルタリングで捲り上げても蓄熱と断熱がたすき掛けで夕涼み。
トレーナーのメイキングに、ロールプレイングのスクリーンショットに、モーションキャプチャーのフライヤーに、マイブームのオフショットに、グラウンドオープンのベストショットを付けた、社史‐ロッククライミング‐のキャプチャ。
君達より先に家路に着く途中、しらふな婦人会の機織りへランダムに思いを馳せても、私では気が散って装丁の良い掛け軸にはならない。
何でも言ってとか、困ったことがあったら遠慮しないでとか、君の為に何かをしたいとか、役に立ちたいとか、自分が頼られる存在になりたいとか、そういう強い願望を口にできていたとしたら、コルジリネ・レッドスターを飾って、フランネルフラワーの深みにはまり、底なしの愛へ淫靡に溺れるような、単純で愛いな恋に落ちれたのか。
君と交わす言葉にはいつだって密かに反響する愛情が暮らしていたけれど、好きだったとか愛しているとかごめんねとかじゃあねとかさようならとかありがとうとか、君に名乗れるような名前はなくて、私が傷付くことで君を守れていたのならば私は幸せ者であるから、得意の身辺整理‐404 Not Found‐で君の居場所をリノベーション。
君との希望が無いと分かれば、君との未来なんていう幻想を捨てて、裏声の数え歌で新たな一歩を踏み出して前に進むことが出来る塔屋‐ドロー‐になれるのか。
君に出会ったあの日はきっと天中殺だっただろうから、採算の模範のように後悔はしている。
生きていくことに慣れはしないのに、死ぬことは拒んでいたあの時分から、湧水のように澄んだその綺麗な瞳に、私を映して欲しいと強く願いたいけれども、私はビロードの切麻のように美しく生きられない。
童心に帰ったような君の隣に退色した私は相応しくないから、誰より傍に居たけれど誰よりも傍に居たいけれど、ペーペーな私達のニアピンにもならないスリップした友達ごっこはもう終わり。
スペアを含めたすべてのお供を引いて、どこかへ行く為に向かうのではなく、どこからかも逃げる為の正比例の焼失。
背中合わせの反比例‐ベクトル‐で歩いて行けば、どんどんと開いていくその距離は、口が裂けても言えなかった私と気付かないでいてくれた君との間にあった心の距離に思える。
まるで漆喰‐マシン‐で塗り潰されたみたいに、私の足跡をどこにもなくして、君の視界の中の私だけを居なくして。
私の世界が君一人を騙しているみたいに、私が耳にしたい君の声だけ聞こえて来ないようにして、この名も無き感情を感じないフリをしたら、私は記憶の中の君の笑顔にまた触れることが出来るのだろうか。
いやそんな穂先よりこの花穂を受け入れようか。
それでもいいと、私に幸せをくれた君が幸せならばと、そう思えたのだから。
カスミソウのような君の補色残像と切なさが込み上げて陣取る、平坦ではないこの心模様もきっと日にち薬だから。
君が居るからこその要衝から私の足音だけが遠ざかる。
仲見世に寄る妹よりも先に戻ってきた君を迎え入れた、明かりの無い人気も無い静まり返った我が家。
先に帰って居るはずの私を君は呼ぶけれど、返事が無くてとにかく不思議で、だけれど。
部屋に置いてあるはずの私のスーツケースが無いことに気付いて、君はすぐさま家から駆け出して、右往左往に道を駆けて私の名前を叫んだと思う。
いや叫んでくれたよね、きっと君ならば。
でもね、君がいくら呼んでも何度叫んでも、私には届かない、届かないようにした。
だけれども、私と出会う前に戻っただけの話だから、心配しないでもすぐに慣れるから。
私が残してしまった5文字の置き手紙なんて紙切れ同然、むしろ紙くずとして捨ててもらって構わないから。