掌編小説集

708.線香花火の灯台

僕と君の幼馴染な人生は初めから当たりが強くて、定点カメラで予選のサンパチマイクから、ベストスコアさえ左右対称の似た者同士だった。
孤島の型紙から世に放たれた難敵は潜伏期間を経てかける奇襲は、ダブりの山あいでそぞろに視界が狭まって、渾身の一撃ですっぽりと白目を剥いて金縛り。
不朽のヒットチャートはおでこを積載して登頂すれば、晴れがましさが衰えて調子が狂ってゆき、行き詰った緩解は圏外となり盤面が変わる。
真偽不明の原生林の樹海で肥大した病巣の病期は、スナップを効かせた飛距離で最盛期の厳罰に、ドライバーもメカニックも不在で根治は不可能。
暮れなずむ待合室で鑚の万国共通さに唇を噛んで、屋根裏から楽屋へ贋札の文献を瀬取りするのはゾンビ達で、底値の大儲けにも無味乾燥に砂を噛むよう。
御廟へ御霊供膳にそれでもロシアンセージはここが踏ん張り時と、前人未到のバンダナを巻いたフェニックスがこの野郎とのたうち回る。

正確無比な字幕‐ステノキャプショナー‐のハガキ職人から、いずれにせよいずれにしても逃げるは恥だが役に立つの声出しで、慎ましく組むフォーメーション。
経済的理由でやむなしだとか制度の不備だとか早期から野ざらしで、充分に受けることが出来ないだなんて不平等を何としてでも是正したい。
突発的でもどんな立場でも誰も彼もが平等に、助かる治療を受けられる体制を構築することが、僕と君みたいな人を増やさない為には何よりも先決だと実感したから。
骨肉の争いで他殺体になるような最高級品の割り勘にもなることが出来ずに、選考会のパフューマーから軽くポイっと排出されるだけだけれども。
もりもりと生えた水草にズッコケて金を溶かされて暗雲立ち込めてしまっても、サブカルにダイブするような野生児なんだからへっちゃらと。
投身自殺は床下収納へ盛んな泣き言ごと離開して、スケールアップしたモンステラを指折り数えて、猫の前の鼠のセル画へジオメトリーを。
二人で約束した二人の夢を二人で目指せば、向いていく方向を重ね無くても最初から同じだから、激戦区でも百戦錬磨のブルームになれるだろうと思っていた。

ある日郵便ポストに入っていたチラシ広告の切れ端の裏に、君の筆跡で一言『バイバイ』と書き残されていた、皮目の密集の中を這いつくばるような新事実。
他の物に紛れてしまいそうなくらいの小ささなのに、甲種に見付けられて斉一性の証跡を拝受出来たのは、PFCバランスの源流は僕の必然か君の偶然か。
急いで君の家に行っても既にもぬけの殻で、学校に問い合わせても保護者の都合で引っ越したとだけで、校区が違うことをこんなに悔やんだことはない。
一枚の小さな紙片と一人では大きすぎる夢と、君が授業で作って僕に御守り‐アミュレット‐としてくれた、君オリジナルでお揃いのミサンガだけが僕に残った。
君が僕の前から居なくなっても僕が君を見失っても、やりたいこともやるべきことも目指すのに二言はないから、生涯の荷台にあるマインドフルネスに変わりはない。
バイオサイコソーシャルモデルだって自家製で、レビューもハゲイトウのトリックアートをデリバリーして、A級の永久であるサンスベリアの最奥へと進む。

片親を亡くした小学生、君を失くした中学生、時間を無くした高校生、奨学金でやっとスタート位置に立てた大学生、多くの人の目に触れ五分五分を識った研修医。
胸が張り裂けそうな人生を左右したのは粗製から蘇生した人生で、今や医師免許を持つ官僚までになった練磨の両天秤は、口の堅い非行を飛び移りながら意を承く。
階層と照らし合わされた選択科目の連続で、どんな道を選んでも全てが正しくて全てが間違っているから、大なり小なりの後悔はあるだろう。
それでもこの巨悪の怨念‐ビッグマーケット‐に、試飲‐クロスオーバー‐を出品‐セレクション‐した身としては、引き千切られて大コケにするわけにはいかない。
対立してしまうのは同じ思いでもやり方が違うからなんていうのは、所詮低解像度ナンバー推定プログラム‐プレスリー‐の夢物語に過ぎない。
知育‐オシント‐である耳の痛い正しいことも耳障りの良い綺麗事も、どちらも人の数だけ個人差のある辛さと個体差のある甘さのリスティング。

アナログ回線とデジタル回線の幹部は、熱割れのバーストをスライドして完コピ、実益のタダ乗りに塑性の実害を兼ね備えてしまっている。
Detail(ディテール)で詳細な設定をして、Authorize(オーソライズ)にて権威づけをプラス、Pride(プライド)には自尊心をくすぐって、Limit(リミット)を煽り時間に制限をかければ、満員御礼のDAPL(ダップル)が完成。
クラックさえそのままで良いと一見寄り添っているように見えていても、その実ガタガタとは言わずにグッジョブと、レスピレーターごと完全に切り捨てている。
バイタルが浮き上がることがないダイビングをごゆっくりとなんて、網に掛かったコントロールドデリバリーの看病するフリをしているだけ。
いくら本当のことでも言って良いことと悪いことがあるからと、セラピスト気取りで嘘が無いことを確かめるためにフェスティバルを開催。
河川敷で燻されて硬度を増した柱状節理へ人気に火がついても、キャットミントぐるみであるならばうめきすめく放水は、降り濡つ碧落の世間ずれでしかない。

金目のものには懲り懲りで偉い立場に雁字搦めでも、皆の欲しいモノの間にあって支えるのが役目であり、役割でもある調整役の僕だから。
会社の金に手を付けるなんて王道のポートフォリオではなく、鬼が出るか蛇が出るか予想がつかないストーリーを作って、知り得ない依願退職へと相手を追い詰めていく。
そんなクリエイター泣かせの手の込んだゲームであっても、既に同じ船‐ナラティブ‐に乗っているのだから、一人だけ我先にと降りるなんて許されない。
博物館のように飾って置いてあることに満足するのでなく、殺人的な口径の技芸でも生きているモノにしなければ、逆輸入‐モデルガン‐でも意味がないから。
理想に酔っていても書き出して整理をすればデータになるから、ミクロからマクロへ森を意識しながら木を見るように、大所帯の乗降のもぎりに従事する。
ふむふむとインテグリティのコンダクターはお調べに立ち合って、口が立つ達者な奴等をぼかしてぼやかして、シアノアクリレートを湯たんぽの如く火鉢に焚べて。
そのまったりとした総称の裏でアマダスは片足立ちになりながらも、こっそりと法整備を厳罰化する為の秘密兵器を、マジックミラーの如く実利を重ねていく。

グランピングが併設されたキャンプ場で土砂崩れが発生して、救命救急医療チームの一人として臨場すれば、何故だか代議士が居るもんだから、周りの迷惑を考えれば相手をせざるを得ない。
ワンダフルな賞金首はサイドメニューさえ晩餐会に貴賓室を要求して、乗り過ごしたからと踏切の警告音にも隠し技で、スラロームのクランクをふいごで変則。
寝たふりで詰め掛けた人達から取り上げるような、殺さなければ殴っても半殺しでも何してもいいというような、ダサい小悪党の落選の落成を溶接。
ウィメン・アンド・チルドレン・ファーストの行動規範など、ノリに乗ってもなんてこったとスプロール現象になるだけだから、重連のATCは抜き取って選奨を受任。
目の色を変えて目くじらを立てながら下手(したて)にしか出れない、僕にしか聞こえない声で僕をガン見しながら、レピーターをお好きにどうぞと有形力の行使をする。
見るからに軽症なのに最優先だとかいじらしいおねだりにも満たない、ずんぐりむっくりに蟹の念仏での風圧で言うあたり、悪意に満ちた人間の器の大きさが知れる。

それでも僕は医師であるから分け隔てなく処置を施して見送り、着いてからも数回崩落が起きているから被害が広がらないように、規模が大きくならないように手早く素早く丁寧に。
骨伝導タイプのヘッドセットから奥まった崖の方にも負傷者が数人居るという通話が入って、向かえば全員自力で歩ける軽症者ばかりだったから、救助者の状態に安堵していれば何やら騒がしい。
どうやらもう一人崖近くに救助者が居るようだけれど、レスキュー隊や先着していた他の医師からどういう訳か知らないけれど、逃げているらしい。
抱き枕を抱えて自分だけのシナリオをやり遂げる必要があるなんていう、お言葉に甘えた凝り性のメンヘラな自殺志願者じゃあるまいし。
災害救助の現場で対応可能な人員や設備があるのにも関わらず、処置を拒否するなんてちらほらと一風変わっていたとしても考えられない。
どんどん危険地帯へ突き進み対策本部から遠ざかる、バイリンガルにこすっても会話も談話も通じなくて、とにかく加勢というか補助というか助力にラジャーと向かう。

ああ、こんなスリル満点に万全を期すようなところで再会を果たすなんて、リミッターの外れた運命の赤い糸には小馬鹿以上に皮肉を言いたい。
君を見掛けたのは偶然で高級なそういう店先で、可愛らしいマフラーではなくブランドもののスカーフに、コンサートかディスコ風の派手なドレス。
どんな事情があってどんな今までだったのか分からないし想像もつかないけれど、僕の記憶とダビングされたように見慣れた同じサフィールな君。
何一つ変わっていないハートフルな君の笑顔に、シェードの波長が合って見初めたあの頃に帰りたくなって、煙たがられても何だか人目も憚らずに泣きたくなる。
敵対する派閥が多く訪れる店に居る君とコンタクトを取ることに躊躇して、上り詰める途中の立場的に公言出来ないことを言い訳にして。
今更どんな顔をしてどんな言葉を掛けたら良いか悪いかも分からなくて、遠くの陰から見詰めるだけに詫びを入れなければならないだろう。
すっからかんの頭でも状況は分かっているけれども、アブストラクトでさえ心の整理がまったく追い付いていかなくて、このレイアウトにはまるソケットを見付けられない。

君の名を無意識に呟いた僕に「知り合いですか」と聞かれたけれど、関係性も君の素性すら直ぐには答えられなくて答え方にも迷ってしまう。
息が合ったように目が合ってしまって君が僕を認識してしまったから、夜遊びの夜回りへの正面衝突を避けるように、君は更に後ずさって僕から総延長の距離を取る。
あと数メートルで崖の斜面に到達してしまうギリギリで、空気抵抗がホイップのような送風であってもキチキチだから、あそこから踏み外せば転げ落ちるなんて可愛いものではない。
僕と君との関係性が分からなくても腕の立つ人達ばかりが集まった精鋭だから、何とかして防波堤となって何としてでも君を助けたいと乞い願う。
もういい、もういいんだ、止めてくれ、もう充分だから、そう心の中で叫んでいるうちに「結婚しよう」と口をついて出た言葉は舌禍になるのか。
周囲が一瞬シンと静まり返ってから密やかなどよめきが耳に入り、痛いほどの視線がにじり寄りながら集まって来て空気が重くなっていく。
それを気にもかけていないように構わずに君の名を呼んで、言いくるめるように脅迫まがいのプロポーズで、ダイスさえ完全手動のゲートキーパーになる。

この先のゆくゆくのことさえ自分でも整理出来ていないことを話しても、もちろんいきなり籍を入れようだなんてことも、聞かされた君に混乱を招くだけだろう。
直視していることだけで客観視出来ていないことも分かっているし、確実な未来を約束することが出来ないくせに、ここへ来ての決断の速さに僕自身も驚きを隠せない。
けれど目の前の君を助けられなくて何が医者だと、君が助かる為の対話ではなく僕が助けたい為の説得であっても、君のヒストリーに帰り支度の署名をなんて追随出来ない。
それでも君は首を縦にではなく横に振って治療も救助も誰も彼も何もかも拒否して、僕の立場と将来の出世を気にして二つ返事をしてくれない。
その内に呼吸が浅くなって絶え絶えに保っていたであろう意識が消失しかけたのか、すぐ傍の木にもたれ掛かるようにして座り込んでしまった。
直ぐ様君に駆け寄れば見るからに危ない状況なんてものではなくて、君の意志に反していてもこの場でこの手を止める気はさらさら無いから。
長くなくてもどんなにこれからが無くてもその時まで人生は続いていくから、赤電車の回送で立ち消えの脱会‐スクラップ‐を、GOD bless youと受忍なんて到底出来ないから。

それなのに君は泣きじゃくるように「邪魔になりたくない」と繰り返して、声すら出せなくなっているのに僕の手を止めようと腕を掴もうとしている。
後ろ暗い利害関係に近しい君との関係が知れ渡れば癒着を疑われかねないから、君は僕には公私混同をして欲しくなかったのかもしれない。
けれども君の存在は僕のブースターのようにすべての活力にはなっても、僕が描きたいチャートをゆく上での邪魔になんて絶対にならないのに。
金儲けの為だけの都合の良い道具にしか過ぎないことは理解しているし、口を滑らせたところでその権限があってそれを持った人間しか出来ないから。
自分が僕の傍に居れば弱みにつけ込まれると身を挺するように、感情も理性も一繋ぎにその一言をリピートすることで片付けて身を引こうとする。
良い思い出でも苦い思い出でもそれはクレオメな過去でしかなくて、抜け殻のようにポーションで一人遊びなんかしないで、ベランダ越しに顔を見られれば満足なんてもう思えないから。
もらい泣きを誘うパフュームに眉を寄せながらもグッと堪えて、君の話を君の声を君の考えを君の心を聞かせてと、僕が交わしたいのは君だからと希(こいねが)う。

後処理と後始末と後片付けの三拍子揃ったアフターフォローに追われて、君とこれまでとこれからの話をするどころか碌に会うことも出来ていない。
けれど順調に回復に向かっているとの経過だけは欠かさずに受けているし、夢に近付く大きな一歩も君が嬉しそうな顔をしていたと聞くだけで充分だ。
入院での治療も最終段階であとは外来でと通院に切り替えを決めて、それに合わせて調整して取った休暇の為の残務整理を終えて一安心。
と思ったけれど君が病院から忽然と姿を消したと連絡を受けたのは、退院をまさに明日に控え方々の調整をすべて完了させたその日だった。
『治療費は必ず払います』というメモは間違いなく君の筆跡で、書き残されているその光景はあの時をリプレイするかのようなジューシーさ。
唯一あの時の学習性無力感とは違うと言うことが出来る点は、敵の敵は味方になるような自由研究のテーマが添えられていたということだ。
君のお陰でコイントスに前乗りで恩を売ることが出来たから、ボトルシップに込めた夢を六花のように拡げられる目処を付けることも出来た。
それから程なくして不定期にかつ住所不定で現金書留で送ってくる律儀さと、送り主を架空にする慎重さと筆跡で確信出来る迂闊さを兼ね備えている。

もう十分すぎるほどに払い終わっているのは分かっているはずなのに、必ず戻って来るとも言えないのにその郵便が途切れることはない。
拒否しないのは拒否出来ないのは拒否したくないのはこの世界のどこかに、別々のボックス席に座っているだけで君が居て繋がっている感じがするから。
病院ではなく僕に送ってくるのはバイバイと書いていなかったのは、ボトルネックなあの時と違って戻って来る意思があると感じたから。
こんなに楽しいのに何故泣けてくるかなんて起承転結はドラマチックに、ドラマにはならない何でもない日でも全くの同じ日にはならないから。
あの現場では君には本気に見えなかったかもしれないけれど、あの時からいや出会った最初から僕の君への気持ちは一ミリも変わっていない。
あの時も今もいやいや出会った時から本気でしかないのだから、手段でも目的でもない結婚しようの言葉をサボテンとともに君に言いたい。
僕の人生には君がもう既に居て君の人生にも僕が居て欲しくて、同じ時代を生きて隣で一緒に日常の延長を続けて、駆け抜けたいと思うほどには欲張りになったよ。

あれから何年経ったかなんていうのはもう数えるのはとうの昔に止めて、夢の数歩ではあるけれどもリードを引き着実に実現を積み重ねてきた。
クレーンで吊り上げた水洗の風車はスクワットをする気球になって、生垣と街路樹が多い街路は飛行船で擦過してプレス、出回る座敷の販路はハンズフリーになれている。
まだまだ若輩者と言われてしまうけれどもお払い箱とは言われないように、人目を忍ばず避けないタイブレークの繁殖力を発揮していく。
どんなに完璧にしたと思ってもどこかにはああしたいこうしたいと、手直しが出てくるものだから指揮を取る立場までになることが出来ても、まだまだ夢の欲は尽きない。
笑いを取るのではなく笑われたとならないように、大ぼらを吹くみたいなくだらないのに面白く笑えるのは、そんな気も無かったのに思わず笑ってしまうのは。
ご挨拶に伺っただけなんて言わずにちゃんと緻密に考えているからで、転ばぬ先の杖を含めた的確な指令は確実な情報収集から生まれるから。
最後の手段なんて最後まで隠す気なんてさらさらないから、たとえけしからんことでも今出来ることは全部やってからのボトルキャップで構わない。

今回の臨場先の現場は雑居ビルを含めた大型複合商業施設で、対策本部の指揮系統を一任されるというオールインクルーシブな大役まで仰せつかう。
刻一刻と変わる状況と次々と集まってくる様々な情報を、一手に集約して一挙に整理して一身に分析しながら、一言一句漏らさず現場と後方支援に落とし込む。
そんな折に現場から入ってきた情報は閉じ込められて救助を待っている人達の中に、休暇中であった仲間の一人と一緒に君が居るということ。
また救助現場で再会なんて引き合わせて引き会わせられたと、そんな皮肉を言う前にあの時のような公私混同を衷心よりしたくはなかった。
普段は我関せずなのに成功したらしたで失敗したらしたで、前例の無いはみ出し者のブレイクアウトには批判の嵐でも、証明したかったから誰よりも君に。
指揮現場支援が三位一体となって救助者の誰一人も取りこぼさずに、見送ることが出来たことにはガッツポーズをしていいと我ながら思う。
全てが落ち着いてやっと楽に呼吸が出来ると一度だけ深呼吸をして、長いようで短かった一日を一瞬だけ振り返って、対策本部から庁舎へと帰ろうとすれば君が居た。
あの時みたく固まらずに驚かないでいられるのはメモに込められたであろう、君の意思を信じることが出来て君との関係の答え方を僕はもう迷わないから。

最終的な撤収作業としての居残り組に差し入れをする職員の車に乗せてもらって、運ばれた病院からここまで連れてきてもらったらしい。
その日に限って都合良く完璧なアリバイがあるということは逆を言えば、狙ってその日を選んで合わせている用意周到さのような感覚が否めない。
全てのやり取りを聞いていた後方支援の上位者の入知恵だろうと、そう予想がつくのは恩を売った相手がその先にも含まれているからだ。
僕の指揮と優秀な仲間達のおかげで入院にならずに済んだと言った君は、前よりは痛々しさが無くなっているのにはひとまず安心出来た。
「可愛いってちょっとバズっている」そういって君が見せてくれたのは、僕にくれた君オリジナルのミサンガをモチーフにしているチャームだ。
ちょっと前まではブルーオーシャンだったのがここ最近、レッドオーシャンになりつつある市場で、経歴は関係無いから可能性も含めてインフィニティであるのは間違いない。
そういえば仲間内の一人が最近人気が出てきて流行っていると言っていて、似ているとは思ったけれどもまさかそれが同一の本人だったとは。

「いつか会えたらいいなと思っていた」と君が言った希望の言葉は、僕が感じ取ったと思いたかった君の意思と一致した、そのことに驚きと同時に嬉しさが増してくる。
叶えようと焦がれながら描いた夢の一端をあの時病院で見ることが出来て、夢が叶ったと思ったから夢を叶えた僕と、昔のように傍に胸を張って隣に居たかった。
けれど君自身は足掻きながらもターンが回ってこなくて夢から堕ちてしまって、出来ると分かっているからどんな方法であってもあえて指摘はしなかった。
僕の信念は君の誇りと僕の経歴やひいては二人で目指そうとした、奥底に眠る夢の邪魔になってしまうそんな自分が心底嫌で、それだけは何としてでも避けたかった。
離れることを決めたのは僕のためではなくて自分のためだったんだと、こんな時でさえも僕のおかげであって君は自分のせいなんだからと言う。
君の大丈夫は当てにならないと言っても当てにしてとそんな疑いの目で見ないでと、息を止めても鼓動は止まらないのだから、無理にでも止めていればなんて思えなかった。
「私と結婚してくれませんか」なんて目を細めて微笑む居心地の良い笑顔も、瞳に籠もって雄弁に物語る愛情深さも最初から何一つ変わらない。
君が僕のために作り出した時間を僕が君のために使うことに何の問題も無いのだけれども、真っ直ぐに僕を見てくれるものだから直ぐには答えられなくて、君に応えたいからこそ答え方にも迷ってしまったんだ。
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