掌編小説集

707.罪深き情念の窖‐クロストーク‐

外観から清涼感のある高スペックな佇まいのオーセンティックな彼は、朴念仁とは真逆のハイカラなコミカルさが持ち味、宝石箱は条件が揃った初手から効果絶大の眼福で、ウインクの着目には人気沸騰で地下茎に知れ渡って、槐な不死鳥さえまんじりともせず興奮冷めやらぬ名ゼリフに、頬擦りするような初演の初舞台を心に留める為に見逃すまいと、夜な夜な今か今かとブランディングな著者を拝読して、ドッグヤードの地平線からの潮位はジェスチャーさえも聞きなし、先立つ不孝も不幸もお許しくださいとバックボードに謎解きを、フリーライドのナンバーワンには皆まで言うなと急逝。

せこせことボヤ騒ぎどころか先発してもう一花咲かせようと、危険日のハッチはロストして惰性の旗手は先輩面したとしても、直轄から分離して将棋倒しで沈没すれば大目玉を食らうから、吹き戻しのテンポアップにお目当てしか勝たんと鬼灯を、サイリウムやケミカルライトのポップアップが同時多発、帰郷の昇降口はサチュレーターの神業、豪勢なお焦げは飲み明かして入れ違いでも即応、バッテリーは爆燃してレベチの啓示にテンションマックス、チートデイでは言い表せないぐらいに理論武装はイレギュラー、女は帰国して赤くなり男は出国して青くなって対処しきれない、リトマス試験紙の大福帳は群れを成して豊作の騰貴。

起算からして尻を叩くまでもなかった速乾のストーカー事案に、たとえ身の上話が水深の深さの海抜が下落でサ終して、口渇したアンコンシャス・バイアスであったとしても、浸水の高潮を干ばつして水没の高波を旱魃して、うねる水柱で雨水桝が冠水しても干上がるまで、大気の川の板付きである御触れのスローガンの利回りが、ご心痛お察ししますなんてシステマチックにではなく、離島のヴィラであっても備えあれば憂いなしと、お出迎えとお見送りの共通項はお茶の子さいさいの回禄、ベッドタウンの最後まで馴れ初めの講座を受け持つのは、どんじりの銃後でも腰抜けず持ち前の責任感の強い、彼のアバンギャルドな妙技百篇‐カラー‐が出ている。

どうにか持ち前の怖いもの無しのコミュ力で交流を持ち続けて、フリーダムな鍾乳石の地底湖への引き込み線に誘い、前後左右には無くて唯一の死角は背丈差を利用した頭上、痩せこけた生態系で松葉杖の寝技に持ち込みたいと、後部座席ではなく助手席が良いとリッチに目論んで作戦決行、得難きは時逢い難きは友など鬼畜外道の不良債権となじり、二束三文で造替した街宣‐ゲームメイク‐のラテ欄は、試運転‐コマーシャル‐を挟みながら出ハケを繰り返して、プライムタイムでの潔斎を装ったビブラートな泣き落としの裏で、ジャンプアップな鼻歌を歌って食い散らかそうとしているけれども、アウェーが個性でありそれ以外のことがお留守になりがち。

戯れ(じゃれ)合いを巻き起こしながら公開捜査のような範囲で、サウナのようなアイススラリーの温冷浴にジャンプしながら、熱気ムンムンに弾みをつけたラフティングで練り歩く、グレーゾーンな彼とぐうかわを被った女狐のサインポールを、ものは言いようでもオーバーリアクションにあんなんよう言わんわと、リアタイでにくそいぽやぽやを見掛けた後輩が思い出したかのように、これまでのストックの記録を塗り替えるほどの、すくすくと育つ熱量の私憤に烈火の如く駆られているのは、私が群舞の周遊‐カラーバリエーション‐に対して、細胞分裂‐アンテナショップ‐は逆行‐ノーマーク‐だからか。

痩せ我慢‐オーバーリミット‐を使い果たして息が切れても、湿地高原の清流の辺(ほとり)にある新緑のように、怖いもの見たさの中二病への草稿は物持ちのいい武士の情けで、不良の不漁である地元の連れにも景気良く、助けの手を貸すええかっこしいの彼は、緊張状態が岩窟に鎮座する遺物みたく、ムズい古時計の潤滑油的な存在であることは間違いないし、酷い言われようであっても事実‐ビンゴ‐であることは間違いないし、後輩の一本気のある純度100%なこの性格には、私が一周回って同じように精錬したとしても、後輩と同じになれることは出来ないということも間違いない。

盛り込まれたその世代は彼のストライクゾーンであり、快調な締結にウエルカムと沼るのは当然に主軸の描写、イヌハッカを禁教したり尋常に勝負したりするまでもなく、敵前逃亡でもおいしいところだけ持っていくチングルマ、足が竦んで怖いからと帰宅するのに同行して送って欲しいと、やませにバンパー代わりにする女狐の誘いを断れずに、私との約束に都合が悪くなったと陳謝した彼に、寝返りを打つような禅譲の内示は自動更新で構わないし、結晶化‐アメーバ‐に対する弁償もお気遣いなくと返した。

荒波の定点カメラでバキバキにしばかれながら飼育されていても、竹馬の友である三人でいれば着火剤になる原体験も子供騙しに、熱殺‐スイッチバック‐で心配無用に安全だったし、隠していた訳じゃないのに聞かれなかったから言わなかっただけなのに、技を盗むこともなく聞かれれば正直に答えるのにと、野に帰るような殺処分‐サバイバル‐を免れて、一敗地に塗れて耐え難くても泥水を飲んで、脱転から再編された新天地の脱出ルートは禁断の留置線で、生存戦略‐ヘッドマーク‐の互助は場数を踏んだ必殺技で、三角食べの生け簀であっても運用出来ていたのに。

強者に対しては我慢かやり過ごすか逃亡するかしかないけれど、そんなサイドステップをマネジメントするシゴキでも、公共の電波で官製談合のコメディなコメディエンヌで、迷惑ならそう言えばいいなどとコメンテーター気取りもなく、話しても無駄な相手とは話さないだけと無視されてしまえば、嫌なことを言われなくなったからとホッとしたとしても、そうかと思いきや何故かごちゃ混ぜに不安になるのは、無償化以上に価値が無くなったから見捨てられたような気分になって、言われるうちが華なのにDQNな自分が悪いような気がしてくるから。

秒を刻むように一本調子な拒絶の理由は分からないけれど、自分がシンパを出任せに気に障るようなことをしたから、相手は深く傷付き怒って避けられているんだ、という雑魚な自分が悪い前提で考えてしまうのは、相手は正しいのだから自分で考えても無意味というか、自分で考えたとしても結局間違っているのだからと思い込んで、コラムの口絵から扉絵へ挿絵まで流されても、操られる先ぐらいお面で隠されていても選びたいし、おちょくるようにそう思わないとやってられないなんて、喧嘩するなら口より先に手より先に知恵を出さなきゃと、自我も思考力も無くなって寝過ごすよりも思考停止。

座組をやると決めた瞬間には教示はやり終わっていて、俺が殴るはめになったのはお前が悪いからという難癖な理屈は、言うことが説得力のある正しいことを言っているのは、相手がいつも正しいということで自分はいつも間違っているということで、一挙一動に凝視させて顔色を伺わせて怯えさせて、変化を望まず嫌って恐れて自ら潰そうとさせて、抵抗する気も言い返す気も無くさせると、どんな言葉でもかけられたら嬉しくて感謝すらして、もう機嫌を損ねることがないようにと懐を痛めることなく、自らの指揮系統‐コンマス‐を委ねてユキノシタに閉塞させる。

万が一理由を聞いて正当だったら自分の優位が崩れてしまうから、捕虜を支配し続ける為にワロタだけで話は端から聞かないし、頭の中を俺でいっぱいにして欲しいから拒絶しながら、グラスペーパーウェイトを後にも先にも置きまくって、ロシアンルーレットをリポートするように反応を見るという、ネタバレはカミングスーンとやる気を出した瞬間に、クレマチスのカミングアウトはもう既にやり切っている、山を削り海を埋め立てて作る生殺しな滑走路の土台は、規制があるからこそ掻い潜る為に新たなモノを生み出せる。

誰でも良いならお遊びだからと物々交換の初陣の出来は散々で、啄むことさえ全然出来ていないのは教えていないからで、自分からの挿入‐シャフト‐もサイズ感と形さえ覚えれば、教えたら一筆書かなくても出来るよなお前は良い子だからと、とちって連敗に王手をかけるようなことにならないように、この目に狂いはないのだと思わせられるように、これじゃまるで私がその先の展開を期待しているみたいな小芝居を、増築した下絵は私の願望なのか三人が私に見せた夢なのか、逃げているのではなくて行きたいところがあるだけのワタスゲ。

ブラインドタッチで進めていた遥拝‐キープアウト‐に気付かれてしまって、パートナーシップのヘルプとしての交渉成立‐ラストチャンス‐を逃し、言葉が出なくなって何も言えなく無ったからただひたすら黙って、時が過ぎるのを待ってチョメチョメという役職から逃げ出せるような、私はそんな聡い子‐グラビエーター‐にはなれなかったから、ローンオフェンダーとして名を知らしめてしまって、和平の名のもとに蜂の巣にされて周年を迎えられずに、刑場の露と消えることもなく一杯塗地‐フルアウト‐で、卓越した至聖の鰭を永遠に奪ってしまったことは、どんなに願ってもニッコウキスゲは取り戻せなくて、ミヤマリンドウの朝靄はずっと心残りの遺恨だ。

確かに言っていることは耳が痛くなるような正論だけれど、私のためだからと愛しているからこそ厳しく言うんだと、言葉はキツいかもしれないけれど愛情深いという、一方的な愛を盾にして自分の主張をぶっ通そうと、ぶつけて振りかざして何よりも最優先するのは、自分の価値観や正しさの意見だけを押し付けることで、心情や背景を理解せずに言い方やタイミングも私への配慮に欠けて、私の考えを自分の考えに軌道修正して、いつの間にか自分の考えに自信が持てない状態に陥ってしまうのは、決して都合のいい幻想に流されたからではないし、ありのままでいられない関係なんて危険しかないから、言葉に安心感ではなくプレッシャーを感じているなら、それはもう愛ではなくそれはもはや攻撃と同じ。

本当に愛してくれる愛しているからこそいつどの瞬間も、私の気持ちを置き去りにしないで寄り添い思い遣り、私の心を傷付けるような伝え方はしないと今ならば分かるけれども、望みなんて最初から持たなければ苦しむことも無かったはずなのに、三人でと望んだ私のお願いを聞いてくれただけで悪いのは私だけで、私の名前を使って構わないのに立場が違(たが)ってしまったとそれもしなくて、居ることは分かっているのだから場所さえ分かればそれを伝えられれば良いのだからと、和を以て貴しと為すと二人が拾ってしまって二人で届けてくれた私の想いは、相槌でも二人が居ないと独り言なることを証明する。

ロストボールのように気付かれなければ上手く出来たはずなのだから、陰の努力が駄目だったことにどこ吹く風で押し通して続行、トラス構造である観天望気のチュートリアルから、今度こそ気付かれないようにしなければならないけれども、エゾツツジをギクシャクと嘆き悲しむだけだったあの時とは違って、VUCAの脈打つエンジンの原材料は私の生命だけで構わないから、蹲踞の構えで集成して敵役(かたきやく)の結党の産地ごと陥没させて、誰彼構わずに何人(なんぴと)たりとも一発アウトにはさせないと、かなぐり捨てた今ならリーサルウエポンを携えてきっといや必ず守れるはず。

彼奴のように好きになってもらわなくてもそれでいいなんて言えないから、心恋に好きでいることを許して欲しくて、それでもって好きになってもらえるようにするから、俺色に染めるからしばしお付き合いください、なんて計らいを滲み出して言っていたけれど、彼に好みに染まっている訳ではなくて、何でも卒なく出来てしまうということは特化した専門性が無いということで、ただ単にキャッチアンドリリースで自分の意思が無いだけで、この笑顔のワイパーに何を誤魔化して隠しているのかも悟らせずに、人工呼吸器不要のゲームオーバーまでのつなぎ役だから、どうしたらいいのか分からないから困ってしまって、寧ろこの状態が困っているかどうかも分からない。

抜糸された仮死の疎水への貫通路は遠雷の雨柱さえ手掘りで、取水して浸水する水車‐タンデム‐のプレーンな温かさは、放散痛‐ガタツキ‐に機能性神経障害を安置して、ドクターショッピングのワールドツアーの真実味の末に、抱き締められた時のようなゲンゲに居着くようになってはいけないし、全幅な温もりに後事を託すような真似をしておめおめと甘えてはいけないし、彼とは一緒に居たくないというか一緒に居てはいけない、私が傍に居れば彼は怒って泣いて酌んで、垂直避難も水平避難も危ぶまれるから適正化にジャンプ台を、私が居なくなれば落差は激減して彼は心から笑えるでしょう。

彼の末広がりなタイプは私とは正反対に歌い上げる琥珀糖で、メロディロードのキーストーンにざっと目を通してみても、何故彼が私を好きなのかが全くもって分からないけれど、立志伝中の彼にこれ以上は甘えられないから、心配させたくないから会いたくもないのは、会えば彼なら分かってしまうからだけれども、私の負の連鎖に彼を縛ってしまうのは駄目であるから、この名前の無い関係に白黒つけなければならなくて、危険を冒してでも戻って守りたくなるけれども、だけど大丈夫だからどんなモノでも研ぎ澄ませば刃になれるし、過程を並べ立てずに結果で語るタイプだけれども、私を離してはくれない記憶までミニマムな廃墟にする気はない。

女狐と時を同じくしてストーカー紛いかストーカーっぽいのかに、ジッと見られている気がするだけのフッと人の気配がするだけの、付きまとわれている気がするだけでどっと疲れている毎日で、それなのに彼と一緒にいる時はパッタリと感じないから、気がするだけの殺陣に一杯食わされるだけならまだしも、人の不幸は蜜の味的である仕事に対しての報復かもしれないから、そんなことの街録‐カラマツ‐はよくあることでも、高気圧の上昇気流から低気圧の下降気流へ犯行が進化しても、仮説の仮設はリサイズされずに活性酸素になるだけで、何もかも不透明の不定期である上に何の役にも立たない。

人定出来ない以上安直に相談するべきではないし、彼の負担にならないように別れを切り出すべきであるから、後輩が思う女狐の行動は他山の石の音源になって、彼にとっては私の存在が対岸の火事になればいいから、襲われるなら私一人の時がいいに決まっているから、奪三振を狙えるこの状況はきっと誰にとっても好都合で、誰の手も煩わせることはないノハナショウブは、何にも話さなくて良いし何でも話して良いという無償の愛はとうに品切れだから、誰も気付かないで守れないからと武士は食わねど高楊枝か、助けてと言って守りたいからと腹が減っては戦はできぬか。

彼がもはや日課と化している女狐を自宅まで送っている帰途、その同時刻私も一人で帰路についているとやはり感じる気配は、いつもと違ってだんだんと近付いて来るから、いよいよかと思って思い切り引き付けてから、バッと臨戦態勢で振り返れば驚いた顔の先輩で、どうやら聞き込み捜査からの直帰ついでに区域を巡回していて、私を見掛けて声を掛けようとして近付いて来たらしく、見返り美人にはなれずに損壊してしまったけれども、絶対的に置いておきたいから置いているわけではなくて、捨てるのが正しいのか置いてあるのが間違っているのか、さっぱり分からないから今のところ置いてあるだけのように、今更先輩に取り繕っても仕方が無いし無意味だから。

少々小話も小噺に立ち話をしていると先輩の背後に見えた黒い人影を、なんつったと咄嗟に先輩を払い除けるように押し退ければ、鈍く光る筋が目の前を素早く鋭く横切って、庇った為かもろに刃を受けてザックリいってしまったけれど、執刀のバッファゾーンからは距離を取ることに成功して、前線を預かるので後方支援にあたられたしとはせずに、転がりながらも受け身を取って体勢を立て直して、加勢に来ようとする先輩を逃げてくださいと手で制したら、円心仮説と重心仮説を基にして円仮説を組み立てて、疑獄に冷や汗でも二の轍を踏まないようにリトリーバル、二手三手先を読んだインクレディブルな機動力で円周の外へ。

先輩と一緒に居るのを見て勝手なプロファイリングで勝手に勘違いをして、へべれけにストーブで熱せられた色合いは真っ黒で、ミキサーにかけたソレはドロドロのペースト状になってしまって、万歩計を携えて寄せにいく推し活は本格化して飛び級、そんな顔させるつもりはなかったしちょっと巻き込んだだけなのに、むごい挑発をされたと思い込んで挑発仕返そうと、斯くして味わい深い隠遁も味わい尽くす隠匿もすっ飛ばして、もしゃもしゃした犯意で残滅をキックオフして、闇バイト的な弾丸行動の同一犯とは違って、盲点を付く柔軟な発想と一刺しの集中力は半端ないけれど、好奇な目には花を持たせるわけにはいかない。

気を引こうと後を追っていたけれど釣果はイマイチで、イメトレは完璧なはずなのに現実に仕分けられないから、目の前のサイフォンの原理で湧出した妄想の中の生き写しの私がその通りに動かない理由は、病態‐ウインドーショッピング‐を捏ね上げた閘門式の初期設定から間違っているからで、生息地の岸壁に奮発したドックを横付けしても、うれPとは微塵も思ってくれないから鉄床の車掌にも乗務員にもなれるわけがなくて、人生丸ごと自分のモノにしたいという豆腐メンタルならぬ鋼のメンタルで、研究対象である実験台に傷を付けてその隙間に無理矢理入り込んで居座ろうとする。

美人薄命だの希薄短命だの怒りを理解されない悔しさに叫んで喚いているだけで、大恥をかいたとしてもディベートにすらならないし、そんな奴からの最後通牒は私を食い殺すことみたいだけれどお体おいといくださいにあっち向いてホイと、きょとんとした顔で小首を傾げるようにそんな本末転倒な越境の出処進退には応えられないから、今までのことを話したら次はこれからのことを話そうかとか、どんなことでもいいから本音を話を聞かせて欲しいとか、話してくれて安心しても竿燈の隕石になれなくてもいいから、この滴り落ち続ける生命の灯火は大きな大きな貸しで、莫大で広範囲な利子を付けて返してもらうからと、先輩が止めるのも聞くことなく立ち回って未来を差し出したら過去を少しは取り戻せるのだろうか。

奴を押さえ込んで先輩が手錠を掛けたそのままにずれ込むことなく卒倒してしまった私は、すぐさま救急車で病院へ運ばれて捜査員は召集されて後輩も現着して現場検証を兼ねた後処理に、手配をさせてしまった先輩に申し訳が立たないし余計な始末を増やしてしまった後輩達にも申し訳ないし、処置やら輸血やら点滴やら手術やら私以外の周囲が忙しない中でも、先輩も後輩も彼に電話を掛け続けていたけれどもどれだけでもコール音しかしなくて、バリスタの雪解け水で淹れたサイフォンコーヒーで一息つくようなゆったりとした雰囲気を醸し出していて、フロントガラスを叩き割りたい衝動に駆られるぐらいに記録的な発信履歴と着信履歴が湯水のように溜まっていくだけ。

彼は女狐を送り終えてふと携帯電話を見れば不在着信の嵐でマナーモードな上にバイブレーションも切ってしまっていて、急いでかけ直そうとしたけれども留守番電話が入っているのに気が付いて再生してみれば私が襲われて救急車で運ばれたとあって、一気に血の気が引いてから一瞬で血が沸騰するような感覚に襲われ心臓がドクドクと脈を打って動悸と共に呼吸も乱れて、それでも何とか足を動かすのを急かして病院に急行すれば見慣れた人影があって、後輩が目を三角にして仁王立ちしながら何をしていたんだと、怒鳴った声に反応した先輩が後輩を宥めても彼に対しては当たりがキツくて、聴取を明日以降にしても入院は断固拒否してしまって堂々巡り、結論としては外来の経過観察で妥協したからちゃんと家まで送り届けるようにと、私に対する愛情深さに比例して彼に対しては冷酷無比に言い募って言い残して帰っていき、二人掛かりで重々と言われるまでもなくそうするけれども。

薄暗い静かな空間で椅子に体を預けて深い呼吸で彼の頭に浮かぶのは、いつかこうなることが分かっていた節があるということで、何か言いたそうなメッセージには気付いていたのにも関わらず、読み取ることは出来ても今よりも案件が落ち着いてから、ちゃんと時間を取って返したいからと思っていたから、些細ではあるけれどもズルズルと経ってしまって、何事に対しても○○だからと出来ない理由を探す人と、○○だけどと状況に応じてやれることを探す人、私が後者だということはあれからの事件を通して彼は理解していて、見当は付いているのに確証が無いことは話さないし口にもしないけれど、好きにしてとかそういうことを言わないで本気にするよ、そう彼が言ってもどうぞと軽々しく返す人でもある。

暫くして処置室のスライドドアが開けば治療が終わってまさに帰ろうとしている姿で、清潔なブラウスとは反対に手に持ったスーツは血で汚れ、いつもより全体的に随分とサチュレーションの下がった顔色に、怪我した箇所は包帯でぐるぐる巻でアームホルダーをプラス、彼が病院に居ること自体に不思議そうな顔で近付いて、最初に口にしたのは女狐を無事に送り届けたかどうかの確認をしてきて、約束を反故にしたことには一切触れなくて自分以外の話をするものだから、あれ以来本音を隠すことはしないし嘘を付くこともしない、その代わり誰の目にも明らかに自己犠牲を孕んでいる、彼は私がこういう性格なのだと改めて認識し理解する。

夜も更けて明日も仕事で女狐の付き添いもあるだろうからと、タクシーを呼んでもらったから一緒に帰らなくてもいいと言うけれど、強がりなんてことはなく全くの本心であることは間違いないけれど、半ば無理矢理車内へ乗り込んで私の家へと向かって、降りる時もそのままタクシーで帰ればいいというのを、いいからいいからと強制的に無視して家に上がり込めば、そういえばと初めて家に上がったことに気付いて見回せば、あの時はカモフラージュする為に寮住まいだったけれども、引き起こした出来事と本来の部署的に、役職を考えても仕事柄寝に帰るだけの生活感の無い部屋、住まう家も簡素さが目立つ築年数の随分古いアパートだ。

家にも着いてもう寝るだけだからとどこまででも彼のことしか心配しないから、利き腕を負傷してまともに動かせず日常生活は不便極まりないし、明日は早速外来を受診するのだから色々と準備もあるだろうし、出勤時間ギリギリまで居ると言い張って居座ろうとすれば、分かりましたと明らかに仕方がなさそうに承諾してくれたけれども、だったらと言って別れ話をし始めてしまうことに隠せない戸惑い、そりゃあタイプでもなんでもないし自分自身でも理由なんて分からない、でもだったらの意味も分からないし別れる理由も意味不明だし、一回落ち着こうと言っても冷静に考えての決論だからと取り付く島もなく、並べ立てるのは彼の利益ばかりで取り合ってくれない。

今までの行動がブーメランになって明確な否定が出来なくて、私は至極いつも通りなのに意識しているのは彼だけで、彼がカラフルな色を纏うから私にはモノクロよりも色が無くても構わない、なんて当然のように思っていそうでいや絶対的に思っていて、タイプだからといって好きとか付き合うとかに発展するかは不明だし、そもそも女狐を含めてこれまでと私に対する想いはまるで違うから、どうすれば良いのかどのようにすれば良いのか分からなくて、同じようには出来なくて一歩すら踏み出せなくて言い淀んでいると、私の息が荒く浅く小さくなっていることに気付いて、壁に倒れ込む寸前に抱き留めれば意識が朦朧としているから、まだ話の途中だという私にとりあえず一旦寝ようと言い含めて、布団に寝かせた私の寝顔を彼は穴が開くほど見詰めて、どんな言葉を綴ればどんな態度を示せば伝わるのかと思いを焦がす。
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