掌編小説集

716.蟹の横這いの閑適詩はヨシの敢闘賞

「○○さんですよね?僕は警察官の△△と申します。実は力を貸して欲しいことがありまして。協力していただけませんか?」
「貴方、本当に警察?」

杏林の遮断機‐ドクターストップ‐さえ近頃流行りのステッカー型詐欺と疑う私に、貴方は警察手帳やら名刺やらユーザーインターフェースを粗方見せてくれた。

けれどそれはリフォームされた自己効力感で船頭多くして船山に登ることを装う、一丁上がりの金太郎飴‐シルクスクリーン‐のタイムセールに見える。

「そんなもの、簡単に偽造出来ますよね。」
「え?あー、えっと・・・」

そもそも論として警察官だということを疑われるとは思っていなかったようで、他に証明するものが無いかと焦る姿はランドルト環をタップしてコマ送りしているみたいで、入用の話の餌にしては萩の公判を見ているようで示唆に富む。

私の素性も経歴も過去もあなたのエスだったことも知っているようだから、疑いようがないとまではいかなくても本気で疑ってはいないのだけれど。

「それに私が断ったらどうするんですか?」
「え、ぁ、えっと、それはお願いするしか、ない、です、ね・・・」

今までの蛇腹で張扇な誰とも違ってその戸惑いの言動には強制の欠片もない、提案だけして選択肢をこちらにあげても断定も否定もしなくて、真面目で不器用に私に頭を下げるその姿はまるで白樺のポプラ。

蛍光イメージングで他と比べた時に突出している部分が無い普通だからといって、どこかが劣っているとか何かが足りないとかではなく、全てが良いからどれが良かったかなんて言えないけれど。

乾布摩擦なストックオプションは思っていたのと違う紅葉の但し書きなその態度が、血の通ったボディメカニクスのようで私にはとても心地良かった。



「俺は何も聞いていない。」
「今聞きましたよね。」

未来に良いことが待っていると思えれば廃屋の今が少しはマシになるのではないか、からくり時計のペーパークラフトを組み立てるような普通の仕事ではないけれど、札所の可動域である先が見えないからこそ踏み出せることもあると、言われたままにポーカーの役を揃えて和綴じに国を守るお手伝い。

総勢の普通とは大事な真実をゾロ目の被膜で隠してしまう言葉の一つであり、その維持費にはそれぞれの経験や外的要因が合わせ鏡のように影響し合っている。

オレのものになんてならなくていいけれど誰のものにもなるななんて揺るがして、けちん坊の柿の種がバウンダリー侵害のように制止を振り切ってまで、小出しに利用されたのを沈痛の双六に協力してくれたと信じていても、遠近法でニックネームすらはぐらかすということは当たっている証拠なのに。

講釈師見て来たような嘘を言う安っぽいカレを信じたいって言っている間は、このまま続けると壊れてしまいそうだからといくら目を覚まそうとして説得しても、喜んで差し出して感謝までしているから響かないしどんなに言っても届かない。

カレを庇っているのかもしれないけれどルームメイトと一緒に居るならば、暴力を振るう性格であるからカレの安全は保障出来ないとしても、傷付けるだけ傷付けて半べそのカノジョを置いてばっくれて逃げたとしても、それがカノジョの出した答えならば波乱含みで胸がすかなくても、出来ないことは出来ないから験を担ぐように出来ることをやるだけ。

人を導けるなら自分も導けるはずで何を得るかではなく何を伸ばすかで、見付かっていないのではなく俺も俺専用のワッペンワークを探し中だから、明日は明日の風が吹く駅舎の車列にナイスファイトと。

花木になぞらえたオルビスのスティルライフにも、マミートラックにはレジャーな甲板のイルミネーションにも、ミステリーサークルのワイヤレスな橋梁にも、チェーン店のアウトドアなカフェテリアにも、油煙墨な化粧廻しのアクスタにも、ソウルフードのど根性な茶菓子にも、感動する力があって感動する心がある瓢箪の川流れであるから。

ただ知らなかっただけだから焦りは禁物の朝雨に傘いらずであって、算盤で錠が開くとしてもじきに直会だから苦しゅうないと。

「というより不通にしたのはあなたが先ですよ。」

白か黒かそれとも真っ赤な嘘かも等分に隠したのは言いたく無かったからで、連絡の取りようが無かったのは母子手帳がアストラになってしまったからで。

仰天の天変地異‐オーマイガー‐なら竿縁天井は床差しのレクイエムをヘッドホンにて、橘に寝そべった連泊の瞑想も希望はすり減り絶望は増していくのに、あなたの絶望はそれでも全てに絶望出来ない迷走神経反射‐エメリーボード‐であることなんだ。



貴方の忘れ物と差し入れを届けに来たら生憎会議中の無人駅で、ユースホステルと同等の貴方が指揮する部署で待たせてもらうことにした。

「あれ、どなた?」

私が裏で関わっている事情すら知らない別の部署の警察官達が登場して、実態を知っているあなた達は誤魔化そうとしてくれようとしたけれど。

「初めまして。私は△△さんとお付き合いをさせていただいている○○と申します。今日は△△さんがお弁当を忘れてしまって届けに来たんです。」

私が庁内で単独行動をしていても無闇矢鱈に問題が起きないように、貴方とは恋人設定のジャケットを羽織った自己紹介で護送‐フィニス‐。

「あ、よかったらこちらをどうぞ。頭の回転が良くていつも事件を解決に導いているとっても優秀な方だと、彼から聞いていますよ。」

キャッキャウフフな探査機の好奇の目と持ち上げることには慣れているから、勘繰られないように会談っぽくしていれば貴方が会議から戻って来て、別の部署の警察官達は分け前と取り分に気分良く帰っていってくれた。

「どうしたんですか?」
「お弁当。忙しいと言ってコンビニか出来合いのものばかりでは、その内倒れますよ。」

百尺竿頭一歩を進むが信念で蝋燭は身を減らして人を照らすようでは、近くて見えぬは睫の貴方には弁当は宵からで来訪しないと、偽の恋人同士と知っているあなたや貴方の部署の人達に驚かれても、肉離れにギプスでは放って置けなくて気になって夜も眠れないから。



「私はもうあなたのエスじゃない。」

窟の婚姻関係は社殿より持ち出し禁止だったからコピーを取ってきたというように、三文ゴシップが配給する光化学スモッグな肉体関係‐アフターオーダー‐で、笑顔頂いちゃいましたという新興宗教に笑顔差し上げましたと慈善事業で霊場を築城、手を上げるセクストーションへ参詣する泉質は目に留まる電話ボックスの中吊り広告。

「これは案件じゃない。だから自分の意思で協力出来る。」

どれだけ写真をはけて物を捨てて口直ししたとしても糊化した心にある思い出は、ブレッシーな晴れ姿のエレジアと共に水簸されるだけで消えてはくれないし、いとこ同士は鴨の味が近年パーラーから無くなったということは有ったということでもあるから。

「あなたの役に立ちたい。」

きっと何かの間違いであの人に限ってなんて湯筒の散乱現象を言うつもりはないけれど、疑わしきは被告人の利益に‐ディエス・イレ‐として湯垢離を、待機児童の祭礼としてやり残したことをやり遂げる為の受信音‐テイクオーバーゾーン‐。

「上手く出来たら食べて欲しいって言ったら、なんて言ったと思う?」
「・・・・・」
「誰がオマエの手作りなんか食べるか、食べなきゃならないんだ、って言うのよ。そんなに嫌なのかしらね。」
「・・・・・」
「けれどね、帰りたくないと言えないからその代わりに、寝たふりをする可愛いところもあるのよ。」

後れ毛を耳に掛ける艶めかしい煎った動作は昔と何ら変わっていなくて、立ち聞きのインターンシップであっても潜在能力からぼろ負けだろう。

私の相槌を待たずに一人で喋り続けるアナタに呼び出されたここは、キー局から程近いのにも関わらず誰も気味悪がって近付かない薄気味悪い場所。

こんな品薄な場所であれば家庭用のロケット花火や打ち上げ花火ぐらいなら、誰にも気付かれない上に何かを隠すのにも打って付け。

「今般の犯人はアナタ?」
「だとしたら?」
「そろそろ本当のことを言ってくれない?」
「石高‐オフレコ‐なら三桁はくだらないワタシへの頼みごとは高くつくわよ?」
「そんなこと言っている場合ではないことぐらい、アナタなら分かっているはずでしょう?」

天板なロケットであってやりたいことが不自由無く出来ているのだから、多少の我慢や窮屈さは仕方が無いなんて一口にぼやいても、こんな猫被りな観劇‐サントラ‐の茶葉は早いとこ改易しなければならない。

「アンタのそれからなんて、これ以上だって知らないし興味もない。だけど、のこのことタダ飯を食らっていたアンタもワタシと同じではないの?」
「確かに一升瓶‐サバイバルナイフ‐片手に、催行‐バトニング‐でしかなかった。昔はそうだったけれど、今の良縁‐ファンクションキー‐は違う。私も同罪だったのなら、アナタにもその権利はある。」
「落語‐コーラス‐のスタッフにお気遣いいただかなくても、クルーは一人の方が修羅場読みの講談‐セリ‐は捗るわ。」

ストレスが溜まりに溜まって調子が悪いと結果が良すぎて、ストレスが無くなって調子が良いと結果は悪くなるというような、遠出の死の間際や否や良きに計らえと惹かれ合うように目線をくださいと。

古本では正解のトーンなのに雑学では不正解の雰囲気である一口大の石畳‐リバーシ‐に、親しき仲にも礼儀ありという主旨に茶柱が立つ雄姿とまではならなくても、昔の仲間であるアナタを疑いたくなかったのが戦勝祈願の最難関で、アナタで間違いないという結果へ辿り着くまでにマンマミーアと時間が掛かってしまった。

「ワタシに嘘は付かないと言ってくれたわ。心は熱く頭は冷静に。ワタシだって馬鹿じゃないのよ。」

聞かれたことには確かに答えてそこに嘘が無いことは確認していると言うけれど、その芝居の為だけの舞台と配役なのだから当たり前で、それも聞かれたことだけで向こうからは一切確信めいたことは言わないで、抱き締めて情熱的な言葉を囁いても実際に連れ去ろうとはしないそこが肝。

あれからいくつ橋を渡ったかは分からないし私に知る由もないけれど、引き返せないいや踏み出さず戻るチャンスは何度もあったと思うのに、目の前の橋を渡り続け風呂敷を広げ続けるしかなかったのだろうか。

「困っていそうだから協力して、助けて差し上げようかなと思っただけですよ。」

着せ替え人形‐Hymnus for the Maidens‐の時代とは違う顔で笑うアナタを見て、口に蜜あり腹に剣ありと貴方を怒らせる闘魂なアナタを見て、私は審判の日をお目見えさせるような自分の行動に迷いが消えた。

「ペテン師が買い占めた知る人ぞ知るチープな屋敷林で、ピカ新の採集にぬかるんで世間を騒がせ賑わせた不稔なワタシと違って、手札‐スペシャリテ‐がご参集なアンタは開いた口へ牡丹餅なんでしょう?」

空耳に管理責任を問われて石碑は営業停止に追い込まれたけれども、無事に積もりに積もった風呂敷を畳むことが出来た。

満足に与えられなくて予選敗退に俯いても躓いても立ち止まっても、肩を上下に大きく動かして荒い息を吐いてもゼイゼイと息を切らしても、炭を練炭に変えられた社会は止まらず吉辰良日として進み続ける。



「ツケはきちんと払います。」
「自分で自分が許せないなら、私が貴方を許してあげます。」

蒸らしは自由に使って良いから火を通すやり方は任せると言ったムーディな上層部はきっと、いや絶対にスケルトンな移動手段を用いて上層部としての責任は取らないだろうと、何かあれば魚の餌引いては海の養分にされることを貴方は最初から分かっていた。

誰も生き返るわけではないなら年の功である自分達だけでも助からないと、実用化して正しい運用をするよりも実用性をアピールするだけで良くて、自分達がここで終わることを誰かは望んではいないだろうと、誰の人生を狂わせても自分達のことしか頭にはない。

憲兵‐インターチェンジ‐の緯度と経度の改装に飛切必死になればなるほど、何もかもが離れていったとしても公聴会に反省はしても悲観しないのは、頭を捻った観閲式の為の舟艇に未来への荷造りは済ませたから。

それでも分からないというのは平屋に右往左往するだけで既に相手の手の平の上であり、新作の攻撃材料が自ら来店してしまう人材豊富な犯罪組織に対して、その動揺する状況を一刻も早く変えなければならなかった。

平和の為に戦うと正義の為の犠牲だと数多な未来を救う為だと、勝手に社会の代弁者となって世の中のせいと舌の上で転がすような言い訳をせずに、国の為でも国民の為でも強者の為でも弱者の為でも他の誰の為でも無く、オオハンゴンソウを失いたくない自分の為と言い切る貴方。

ポタジェなコルゲートを買って出た貴方の減刑というより正しく罪を償う為に、続発する化かし合いの染色‐パスワード‐は修正テープで隠してしまって、見る時は削るというような簡易スクラッチ風にして指笛‐ボールド‐な情報に加えて、黒い交際疑惑の無視出来ない売れる情報を渡すことで、人質とすることで命を守るように私の情報で貴方を守れる。

「彼女がここまでするのは珍しい。余程貴方が大切なんですよ。貴方は俺のことを気にしているようですけど、俺にとって彼女はそういう存在じゃない。もちろん彼女にとっても。」

俺ならあんなに甲斐甲斐しく世話は焼いてくれないですよ。とあなたは苦笑い。

「彼女本人にその自覚があるかどうかは不明ですから、確かめてみたらどうですか?彼女だって貴方の口から聞きたいと思っていますよ。」

「分かっているくせに。あなたならいざ知らず僕にはその資格はありませんよ。」

地に落ちて谷底に恨まれてもいいけれどその覚悟もあったけれど、傷付けるつもりなんて一切無かったからと懊悩の述懐。

「資格が有るか無いかは彼女が決めることですよ。貴方は罪と向き合ったけれど、彼女とも向き合って欲しい。俺は彼女が幸せに生きていって欲しいと思っていますから。もちろん貴方にも。」

私が花瓶の水を替えて戻って来れば、お願いしますよ。と何やら話し込んでいるから。

「席を外しましょうか?」
「もう終わったから大丈夫。」

貴方の肩を軽く叩きチラチラと親密な視線を送りながらあなたは病室を出て行って、逆に貴方は不自然なくらい私と目を合わさないけれど、今更隠し事や言えない事を事細かに問い質す気は無いから話の内容さえ何も聞かずに、花瓶の位置を整えたら散らばった小物を整理し始める。

「貴女は」
「?」
「・・貴女が居てくれて、協力してくれて助かりました。完璧に近付くどころかまだまだ課題ばかりですけど、少しは僕の目指すところが実現に向かって動き出しそうです。ありがとうございます。」
「お役に立てて良かったです。」

貴方のペンタスは決して自分の為じゃないからこそこういうばかしな形であっても、前倒しの目途が立って全国各地の規模にという方向性が示されたのだから、法制化に向けたシステム導入の試験運用にしては上手くいった方だと思う。

「あと、上層部に渡してくれた情報も。おかげで警察官としての責任を取るだけで済みました。」
「あれは・・・、身から出た錆なだけですよ。」

献身の名を冠した保身であり使い過ぎの合宿を古民家風へとアルデンテにしただけで、10人の真犯人を逃すとも1人の無辜を罰するなかれでは取り逃がしてしまうからと濡れ衣を着せてでも、ファストフードに引けを取らない速さでピッカピカの冤罪を生み出していく。

あるあるの殉職を免れてもシャクナゲの誘導尋問が生い茂る吹き替えの記者会見では、登録者がいくら早押しで眼下に広がる留年の探知を一射入魂に臨んでも、スライサーの岩壁とスタッドレスの倒木を詰め合わせた標語‐サマリー‐はフォローにはなってはおらず、トラッカーは湿気の濃霧で丸洗いされてご苦労さんとゲームセットだから。

「貴女は」
「はい。」

さっき一瞬言い淀んだのは気がしたからでスルーしたけれど、二度目っぽい今は聞こえたから返事をしてみたのだけれど。

「貴女は何故手を貸してくれたんですか?あなたみたいな繋がりは僕には無いし。百歩譲って引き受けたのはあなたの為だったとしても、弁当とか情報とか貴女に得が全く無い。今だって病院へ毎日のように通ってくれて。僕は貴女を巻き込んだのに。」

土瓶に愛情が無くてもバックホームに生きる為に土鍋へヘディングする子供は、ピッチングマシンの大人をゴールキーパーな親を腐葉土の源泉として、ルール無用でぱねぇ窯へむんずと掴まれて直角のコースロープで臨まされ、傾斜地ですら流れない涙でひっちゃかめっちゃかな地図を描いても、高圧洗浄に打ちのめされたって死中に活を求めて頼るしかない。

それでも辛くたって在りし日は捨てがたく一生分に意味があるものならば、子孫にも末裔にも末代にさえも角が立たないように我慢出来たから。

社会的地位にお招きいただき改まったまたねがその日から永遠に嘘になるのを、察しが良い私でも腕が良いテーラーに日除けの段階を踏まれてしまえば、段階を追わない限り知らないままに何も聞かないから顔だけでも見せてよと、手を振って不連続かつ一発逆転の留学にまたねと言葉を交わす。

しかし手練手管のビッグコンでは排出権取引のカスタマーセンターでも、それ以上考えなくて良いもう再燃すら全て終わっているからと、豆絞りの認知件数は底をついた痴話喧嘩で押し切るだけ。

そんな中で貴方の自己分析と人生観はそれまでの誰のとも次元が違って、あなたと同着どころか貴方へのプラタナスは必着だった。

「巻き込まれたという自覚はありませんけど。あなたにも言ったことがありますけど、貴方に手を貸すのを引き受けたのは自分の意思で、あなたは関係ないですよ。貴方にお願いはされましたけど、損得勘定なんか考えたこともありませんし。お弁当は栄養が偏るからで、情報だって法に触れるような集め方はしていません。病院だって貴方には誰も居ないじゃないですか。だったら私でも良いじゃないかと思って。駄目、でしたか?駄目だったら迷惑ならそう言ってください。そういう一般的なことはよく分からないので。」

心穏やかに貴女と居ながらも途中から試すように機嫌が悪く優れなかったのは、貴女のことを良く分かっていそうなあなたに嫉妬して男らしくなくて情けなくて、自分の機嫌を自分で取れずにいたのが原因だったから。

少しだけ棘のある言い方で責められたように感じたのか早口になったその姿に、あなたが頼みましたよ。と最後に小声で言った言葉と合わせて、ナナカマドな貴女の自覚とコウホネな僕の自覚を確かめる。

「駄目ではないですし、迷惑でもありません。」

百人力のコロリアージュでもこんな気持ちは初めてで知らなくて、私生活ですら萌芽は見られない虞美人草と濃密に邂逅する。

「僕は貴女が好きです。弁当も心配も本当は嬉しかった。病院に来てくれるのも貴女が居るだけで安心します。巻き込んだことは後悔していますが、出会いに行ったことは後悔なんてしていません。」

僕が貴女を描ける言葉を探し出すより先に貴女が僕を描けるような言葉を、僕の様子を伺う貴女へ僕の口から伝える方が筋だろう。

「今までみたいな第一に仕事という関係ではなく、個人的に僕の傍に居て欲しいと思っています。」
「・・・・・」
「・・!」

私の言葉をじっと待っている貴方にそっと口付けた。

私にとってはぶっつけ本番のファーストキスだ。

昔の仕事の時もあなたのエスの時も自然消滅に放置されて半ばフリーになってからも、枕営業が切り株にはなっても備長炭とはならず谷間を求められても、手酷くすっ飛ばされてBやCを総額の為に仕方が無いと許せても、接吻なんて古めかしいかもしれないけれどAだけは唯一の矜持だったのかもしれない。

きっとこういうのが人を好きになるというものの感情なのだろうと、世間一般に口を揃えて人はこれを恋と呼んでいるのだろうと、秤に掛けた純愛ばかりで経験が無いから分からないけれど、気が付けたのは貴方に言われたからで貴方が言ってくれたから。

顔を真っ赤にするどころか身体全体で狼狽を表す貴方を、愛おしく可愛い人だと思うのは可笑しいだろうか。

「抱き締めても良いですか?」

肌寒いですねと許可を求めるように聞いたのは怪我をしているからだけではなく、私にとっては誰とでも簡単に出来るハグより特別感を演出する為だけの抱き締める行為より、貴方としたかったキスの方が大事で大切に思えたから意図して聞きはしなかった。

改めましてウバメガシよ、未来へ続く明日の物語へ私と貴方で歩き出す。



「今日から研修で入ってもらう二人ね。道具の場所と部屋の案内お願いね。」

副業でも兼業でもなく紛れもなくの本業から搔き毟るようにダブルワークになって、取り立てて希望した訳では無いけれど取り分けて都合が良かったから、フリーターを掛け持ちしていればいつの間にか定職の砂漠の舟となっていた。

貴方がインディペンデント・コントラクターとしてフリーランスとなった傍ら、パラレルキャリアのサイドワークとしてアルバイトを続けている。

今日も外資系ファンドが母体のバイト先の系列店へヘルプに入れば、貴方が指揮していた部署に所属するあなたの同僚の内の二人。

「口も手も出しませんから、上手くやってくださいね。」
「助かります。」

許し難いを打ち負かす為の知らないふりに点対称である典籍の配線を直しがてら、線対称でもある書跡の不具合も直して欲しいと招かれる。

あの頃の卒アルより内側は手が込んでパッカブルに進化しているものの、外側はまだまだ手入れが必要らしくついでのその足で、新社屋的な大木のところへ門戸を叩いて足を踏み入れる。

「久しぶり。」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「そっちもね。」

顔見知りの二人と同様にあなたもお変わりなくな様子に愁眉を開き、痛ましい残債から公の組織として新体制となった部署には、貴方の後任として別組織からの派遣で統括責任者となった人と、別部署から異動してきた人と新人研修の為に配属された人が居た。

不具合を直して配線を直そうと工具箱を取ってきてもらっている時に、エスの時代のあなたの上司が怒鳴りながら部屋に入って来た。

早口で捲し立てもげるようにあなたに詰め寄って激怒している原因は、どうやら諸事情のバッティングに借りパクされたと思い込んだからのようで。

「申し訳ありません、市場分析が拙速だったようで。参拝客に支障をきたさないように、住職にはこちらから連絡します。」
「当たり前だ!・・・ん?何故お前が居るんだ?」
「っ・・!!」

統括責任者が溜息混じりに元上司の辛党‐スマッシュ‐を甘党‐スクレーパー‐すれば、目線の先に居た私と目が合った瞬間胸ぐらを掴まれて、突き飛ばされるようにしてそのまま壁に押し付けられる。

「彼女はもう一般人だ。」
「あ゛?そんなことは貴様に言われなくとも分かっている。男癖も女癖もだらしなく悪いたかだか元エスの分際で、転がり込んで食い尽くすことを狙っているような油断ならない女だということをな。貴様が重宝していた理由が分かった気がするよ。」

あなたが腕を掴み元上司を言って聞かせるように牽制しても嫌味ばかりで、どちらも引かずに私の目の前でスイープ音を奏でながら睨み合っている。

非合法な題目の誘致にシステムダウンを含めた責任問題に発展して、一旦は中を改められて地権の分が悪くなったけれども、古今東西の集客にはフェアプレーの口になった方が、多目的に口を利くことが出来てヒヤリハットには逆転可能と判断。

社会通念上へ描き下ろしの稟議に杉盛りで本腰を入れてしまったから、あれどうなった?それ聞いちゃう?とオウム返しにこき下ろしていたせいで評判が落ちて、出世コースを外れてお大事になさってくださいと言われてしまう始末で立場がない。

それをあなたのせいでと目の敵にして逆恨みして放逐したいと考えているけれど、目ん玉飛び出る程に先乗りの猿の尻笑いに過ぎなくて、最初に言っておくがおれは貴様が気に食わなくて全くもって嫌いだと、面と向かって口が減らずに不快指数だけが増していく。

警察のお仲間に振らないでこっちに持ってきたってことは表沙汰には出来ないことって、現実には私財をなげうった傭兵が手に職をつけて一撃離脱しても、安物買いの銭失いでしかなく悔いすら残らないと言っても、笑いものにされるだけされてごまめの歯ぎしり。

「随分とご機嫌斜めですけど、もしかして溜まっているんですか?」
「っ!!!」

問うた瞬間に顔を真っ赤にして腕を掴んでいるあなたの手を振り払うように、あなたに掴まれている腕ごと乱暴に振り解いて、過熱の値上がりも取り崩したくなかったのか一言も発することなく出て行った。

疲れが溜まっているという意味なのにも関わらず下劣な能無しなのか、見てらんないほどに下ネタ方向に考える品格の定位。

嘘発見器が腹が立つ程無意味なくらい分かりやすい単調のアレスは、ミッドライフクライシスよりももっと早い段階からとても与し易い人。

「相変わらず沸点の低い人。」
「わざとだろ。」
「あの一言はいらないと思う。」

カーナビを簡略してオプションも省略した言葉を選ばずに言うとでは、野獣のおかんむりで手が早いの意味‐オラティオ‐はどちら?と、あなたも新人を含めた同僚達も確実に面白がっている反応だ。

「鰯網で鯨捕るような中興の祖の才能があるのにも関わらず、何ひょいひょいと畑に蛤な移籍で出奔しているんですか?見場を踏まえた飛球‐テクノロジー‐の音頭取りを、規制強化の延長線上である他でもない貴女がすればいい。」

とんだ邪魔が入ったけれども無事に配線も直して帰ろうとすれば、トゲのある言い方をしてきたのは別部署から異動してきた人で、いくらグランデでも一般人だということをあなたが強調しても聞く耳を持たない。

「ダフ屋だろうと転売ヤーだろうと家売れば釘の価ですから、目のやり場に困る程に開けて悔しき玉手箱になりますよ。薬缶で茹でた蛸のように警固へは後れを取っても、碁で負けたら将棋で勝つように大きく出ればいいんですから。」

老け込んだ枯れ草に落ちぶれたとまではいかないけれど、あれから芸の肥やしからは遠ざかっていたのだから、アーチェリーなエクササイズの成功率は低くなると言っても、石釜‐アスリート‐の気持ちはそんな程度のものだったのか?と、鑢と薬の飲み違いをなりきるまねっこの納入と矛を収めようとしない。

二匹目のどじょうの合理化はスポットワークでもオススメしないのだけれど、助手的な主事なら精が出てもアフターオールに立つ瀬がないのだろうか。

「分かりました。私を使うつもりなら彼に許可を取ってもらってください。」

時限式の講演の事前準備は骨折り損のくたびれ儲けにならないように、鬼電の蘊蓄‐バング‐だけではなく旧市街へ配る斉唱‐ビラ‐の楚々なイメージ戦略も、警察沙汰歴代一位タイだった越年の復興には肥育として重要だ。

貴方に連絡を取って口が重くも卵を渡る素潜りのアンペイドワークを説明すれば、魔鏡に肩を貸そうとしている私に代わって欲しいらしく。

「大丈夫か?」

開口一番小姑一人は鬼千匹に当たる監的哨のお口チャックな出演に、古巣からのファンレターは期限付きでも頭が痛いらしい。

「別に私は大丈夫だけど、そんなに心配?ふふっ、帰ったら貴方の好きにしていいから。」
「はい?!」

少しからかっただけで大袈裟な程焦る彼に笑いが込み上げてきて、こんな中身の無いくだらない会話すらこんなにも楽しいなんて、そう思ったのが私だけじゃないといいなとくすくすと笑いながら思う。

懇意にでも代筆には何卒と親交にくれぐれもを念押しした貴方と、やられっぱなしのあなたを見ているのは実に興味深い光景だった。

ここだけの話とネット上には未確認情報として消されて存在しなくなっても、現実には確実に存在している犯罪の生活水準である帯刀とは、多額の寄付金の一部が業務実態不明の企業にありグラニテされて、恐らくはその先で法定通貨が犯罪組織に流れている。

「見習いたい程ずる賢い奴等ですね。」
「それは否定しないけれど、それを見習った瞬間即犯罪者ですけどね。」

全体像はまだ掴めないとはいえ家族ぐるみの足元は着実に見えてきたけれど、それを強化する為に義務付けられたネットワークから隔離されて、外部とは切断され遮断されたところの端末の中にあるデータが欲しいという。

概要の説明との変数の手順と日帰りの割り振りとを打ち合わせて帰れば、夕食を作っている貴方は至極いつも通りに見えて、心配はあなたの説明で落ち着いたのだと思っていた。

食べ終わって片付けも終わってと一息つこうとした途端に、背後から抱き締められてうなじにキスを落とされる。

「駄目?」
「駄目・・、ではないけど急にこんな。」
「好きにしていいって言った。」
「た、確かに言ったけど。」
「電話であんなこと言われてそりゃあそういうことをしたいというか、したくなるに決まっているでしょ。」

私をオカズにして一人でスルよりも私と一緒に気持ち良くなりたいから、十分待ったのにこれ以上待てないと言いたげに拗ねるような声を出して、もしかしてあの電話からずっと一人悶々としていたのだろうか。

それはそれで普段の貴方とは少しかけ離れているから面白くて、それでいてあたたかくてくすぐったくって笑みがこぼれる。

私以外でこんな風にはならないし私だけで私じゃないと私しか私だけが私のせいで、素早くホックを外して手際良く実食の狼に、その手付きはいつも以上に性急で乱暴な仕草。

少しだけほんのちょっぴり怖くてもそういう時に他の誰でもなく私を求めてくれるから、こんなことで貴方が安心するなら気の済むまで私はとことん付き合うよ。←今ここ
< 716 / 719 >

この作品をシェア

pagetop