掌編小説集

717.パンチが効いた奇岩の恋煩いは思っていたよりもメロい配色だったりする

奴を隠し撮りする君を見付けた時はピンズドにその手があったかと目を輝かせて、奴に競り勝つ絶好のチャンスだと思ってしまったのは、後から思えばアンカーマンとパパラッチの格の違いも分からない、反省の色なんて全くない低俗な禍棗災梨の親不孝者でしかなかった。

《隠し撮りなんていけないイタイことだとは分かっていたけれど、外装から連想する資料館‐プロジェクションマッピング‐は、フェイク動画よりも極上のフュージョンだったから、ほんの少し梨棗を微調整として貸し与えて欲しかっただけ。》

君は信じられないものを見るような目で言いふらさないでと言うから、もちろん俺は鉱物のように身持ちが固い特選のフリをして、必ず何かを誰かの弱みでも握って脅かす狙いがあるような、何割増しで褒めちぎる女たらしで男たらしでもある奴とは違う。

《マーブルな不穏分子の異教徒でも終末思想はじゃぶじゃぶと水浸しになることはなく、あわあわと恨みがましいけれど未練タラタラにいたぶられることもなく、寸胴な水瓶で校章をしゃぶしゃぶされても隅切りを剪定してお忍びに研磨して、お手とおかわりを理念に忠犬の常人として表面張力を保つことと相成りました。》

君と居られるならやる気の無かった仕事だって変化を恐れずに進化を諦めないで、簡略化するところは簡略化して力を入れるところは入れて、全力で挑んでいれば指南役兼師範代から師範へと層が厚くなる一方で、君は奴の隠し撮り写真を見ているのか少し微笑んでいるのには、ググッと眉間に皺を刻んでは有因契約と無因契約を確かめたくなる。

《貴方のイヤーワームも飛躍的な拡充で激増した残業でなついものになってしまって、会えない痛みのこの距離が会いたい気持ちのこの時間が、私達をより一層近付ける実践的な製造工程なのか、いつもは世界制覇のオブザイヤーみたいなお洒落なレストランだけれど、風味豊かな郷土料理の高級旅館っぽい方が良いのかもしれないと、疲れているであろう身体を休められるような候補先を検索しておこう。》

山肌にはまだ残雪もあるけれども金庫番からの増援があったおかげで、計測は倒錯することもなく現場からは以上ですという運びとなり、久しぶりに君を補充出来るとあって落ち着ける半個室にすれば、君が驚いた顔をしたのはいつもとは違ってリージョナルな店だったからなのか。

《スマートメーターのコンマ何秒の音を聞き分けてアクティビティに疾走、フォロワーの懐が潤えば末永くお幸せにという用意万端な手配が整い、猛勉強の英知を提案することなく貴方が行きたいと言った店が、チルの候補先第一位だったのは偶然にしては出来過ぎているのだろうか。》

普段は嗜まない種類の酒だったからか夜行性がひょっこりと顔を出して、物凄く頑張ったからご褒美ちょーだいとねだれば嫌じゃないからもっとなんて、耳にこびりついて離れない君の声と目に焼き付いて離れない君の姿は、軽く手を上げて負けを認めるたくなるほどのフォルマントだ。

《経験済ではなく初体験だと言えばとろけるような甘い笑顔になるのも、全身を触れてくれる手の感覚も熱を持つサーベルもとかく心臓に悪くて、指摘される程真っ赤になった自分の頬を少しでも隠すように両手で覆ったけれども、顔が見たいと言われてしまえば拒むことなんて出来なかった。》

野放図だって君とはしてみたいけれど君以外とはする気にもならないから、残念ながら季節が過ぎてしまったから来年の楽しみにしておいて、さて明日からの休日は君と何をしようかとどこへ行こうかと考えを巡らせる。

《ほんの少しのことが起こっただけで思い描いていた静かに過ごす未来が、次々と華やかで色鮮やかな姿へとアンビエントごと変えることに、味蕾の反復練習で混ぜ返されてほいほいと翻弄されているのに、軽い調子で近い将来である来年のことをイノセントに持ち出す貴方に、諸々の現実を真面目に取り合ってはくれていないような気がした。》

気長に待たなくてもオートマチックにままあるものも含めて半永久的に、腹持ちよく浮かんでくることが楽しくて候補を上げる声と共に、ダブルスコアの歩みだってうきうき気分で弾んでいただろうし、目と鼻の先に居る君を見ているようで俺の見たい君だけだったようで、君の顔色とか反応の速度とかアジュバントすらちゃんと見えていなかった。

《それでも嬉しそうな顔を見て体調が悪いのを言い出せなかったけれども、寝れば治るだろうという食い意地が張った安易な考えは通用しなくて、魔法の絨毯のようにふわふわして街灯にもたれかかって浅い呼吸を整えていると、普段は悍威なのに今は楽しそうに弾む貴方の背中が歪む視界に現像される。》

君の気配が離れていることにも悪い体調で倒れてしまったことにも気付くのが遅れて、病院に連れて行けば命に別状は無いものの念の為に入院することになって、上司ではあるけれども恋人では決してない俺達の関係では認められない付き添いを、何かしらも育っている想いがあると気迫で感じ取ってくれたのか、たっての願いということで病院側は一晩中を聞き入れてくれた。

《レストスペース的な温かい背中に背負われるのはいつぶりだろうかと思っても、背負ってくれているのが誰であるのか人物像すら分からなくて、それでいて舌っ足らずな思い出の中と違うことだけははっきりしていて、目の前に横たわる冷え込む以上に冷たい身体を温めたいからという、たっての希望という名の厄介事を懐広く受け入れてはくれたけれども、何時間経ってもいくら経ってもどれほど経ってもやんなっちゃうぐらい、温かさは移ってはくれなくていつまで経っても精巧な食品サンプルのよう。》

悪いと思いつつも保険証が無いか探し出す過程でひらりと落ちたのは、父親と母親と幼い男の子と男の子に抱きかかえられた赤ん坊という、オープンリールなガバナンスを会得するいかにもな家族写真で、裏側には男の子の名前と君の名前の隣に年齢も書いてあって、フルネームの表札と男の子の面影が奴に似ていることを加味すれば、男の子は確定している赤ん坊の君の兄貴であると考えれば説明がついて、君の背後にいる可能性があって俺の事件を解く鍵だったのは、奴への恋の病ではなくて兄貴への家族愛だったというオチだ。

《人並みの歩みを断ち切られた兄を薄片にして上梓として懐に忍ばせることで、打ち取られてしまったのを体得して保っていたけれども、現実に現れてしまったら御朱印のように授けていただいていた気になってしまって、あの人に知られないように集めていたら貴方に知られてしまって、薬膳の貫入がジャンク品に成り代わるという据わりの悪い結果になった。》

ベッドの横で椅子に座って食い入るように見詰める君の顔は生気がなく青白くて、気持ちのやり場がなくても自業自得だから吐き出すことは許されず、身をもって知ったのはただただ君を傷付けたという現実だけ。

《目を開けたら病院で貴方に謝って出掛ける予定も反故にしてしまったけれど、貴方はそんなことはいいからと病状は落ち着いたのに家まで送ってくれて、その日一日ずっと俺がしたいだけだからと世話を焼いて気遣ってくれた。》

あの日以来大して忙しくもないのに仕事以外では君から距離をおいているものの、それでもって反省の意を示すなんてことは考えていないけれど、ファールのお気持ちはお察しますなんてことも言えなくて、アンカーとの幸せを心から願っていますとも絶対に言いたくなくて、責務を全うするにはまだ話は終わっていない状態が続いている。

《何かを口実に交流の時間を持ってその関係を深めていくことは大事なことで、忙しくこの状況でそれを言うかと断られたならばともかく、立会人風に作り過ぎたからお裾分けと気を回したつもりになって、後から希望があったと言われる方がインストラクターとしては困るから、忙しい相手だからこそ忙しい中で時間を取ってもらうのは悪い気がしても、失礼を承知で聞きますと一度は声をかけるのが尊重と放置の違うところであると、大手柄のコツを手取り足取りあの人は教えようとしてくれたけれど。》

何やら社内が騒がしいと思えば君が奴にセクハラされているところを、同僚達が目撃したことが問題となって社内中を駆け巡り、特に女性社員達は怖くないから警戒出来なかったのが一番怖いとか、白毫に準えていたのにそんな人だとは思わなかったとか血煙で、女手一つの螺髪のような同情メッキが剥がれ落ちたのは良かったけれど、怖いほどに真剣な顔で力一杯に拳を握るこの姿は誰にも見せられないだろう。

《何か考え事をする時も何も考えたくない時にも来るお気に入りの場所なんだと、対価の発生しない仕事だけれどと心配するフリをした新様式で、他の誰かに見られないようにと人気の無いところの暗幕へと分別されて、遠ざけられてああでも言わないとと言われてしまったのは迂闊で、覗き魔かと思うくらいこっちの動きが読まれていて、少しずつこんな風になれたらいいなと思っていると言われても、今みたいな粋な計らいを含めて必死にやってきた結果がこれか、こんな仕打ちをされるくらいなら今すぐ分からせてやると、強引にせがまれ迫られていたところを同僚達が通りかかり、お騒がせ娘と言われると思いきやそうこなくっちゃと盛り上がった次第で。》

同期の俺も呼び出されこういう問題の取り扱いは慎重にしなければならないから、どういう経緯かを教えてくれと尋ねられたけれど、公訴事実は早計だという議事録を白書にされて即解放されては困るから、俺が直接見た訳ではないので真実も事実も分かりませんが、仕事ぶりを見ても彼女は嘘を付く人間ではありませんし、彼女以外の人間も言っているのならば残念なことですが本当だと思いますと答えれば、言われてみれば確かにと俺に言われるがままに木組みの背割りを信じた経営陣に加えて、パワハラの毛玉もポロポロどころかボロボロ出てきて奴はもう逃げようが無かった。

《染みが許されない白に対して染みを覆い隠す黒は、田植えと稲刈りの舞台造を忘れてはいないし、寧ろ深く残っているのに何で言ってくれなかったのかと、もう終わったことだからと渡来を阻却しようとしても、そういう問題じゃないからとして施無畏印と与願印でなんでもござれと、うっかり女子はちゃっかり男子が国益としてガッチリ捕まえとくのが、回遊式の素屋根として一番安心だからとか無事かどうかは今後の相手次第とか、色々圧も強くそう漏らしてしまったあの人の焼き加減はソムリエによって焼け野原となった。》

君の存在は奴とのことで少しの間だけ社内の話題に上がったものの、奴の樹氷な所業の方が上回ったおかげで君個人の存在は薄れて、徐々に周りの反応も普通になり俺への反応も今まで通りのままで、俺と君とのことは問題にというより話題にすらなっていないから、君の考えが分からないけれども俺からは聞けないし近付けもしなかった。

《あの人は居なくなって社内も元通りとまではいかなくても落ち着きを取り戻しつつある中で、仕事中は今まで通りをなんとか貫くことが出来ているけれども、あの日以来貴方は私に対して仕事以外の話をしないし終業後も誘わなくなって、でも貴方はあの人からされたことを含めて私の言葉を信じると言っていたと経営陣から聞いたから、何故避けられているのか考えても分からなくて帰り道に引き留めてしまった。》

「話って?」

「何かしてしまったかと思って考えていたんですけど、この間のこと怒っているんですよね?私が迷惑掛けた挙句に、出掛ける約束まで破ってしまったから。」

「・・!いや、それは違う。だけど、もう関わらないから。」

「え?」

「好きだっただけなんだ。君と一緒に居たかっただけで、怖がらせるつもりなんて全くなくて、君の奴への思いを利用しただけ。最低なことをしたのは分かっている。許してくれとも言わないけれど、誰にも言わないから。せめてそれだけは約束する。だからもう安心していい。」

「好き、だった・・?」

「うん。」

「言うつもりは無かったってことですか?」

「うん。最初からそのつもりだったから。」

「そう、ですか。」

「うん。だから、もう・・」

「利用、というなら私も同じです。」

「え?」

「確かに最初は、少しだけ怖かったというか、言われてしまわないようにって気を張っていたと思います。でも途中から、いつからかははっきりと覚えていませんけど、怖いとか思わなくなっていました。だから許すとか許さないとか考えたこともありませんし、言うつもりが無かったことは分かりましたし、気に病む必要もありませんから。」

「いや俺のことは・・・。俺は君が奴を好きなんだと思っていた。内緒にしてくれということは、いつか試してみたいとかそうなりたいとか思っているのだと。だけどそれは勘違いだったって気付いたんだ。あー、その、病院で写真見てしまって。兄貴、なんだろ?」

「はい。兄に面影が似ていたから勝手に親近感が湧いて、少しだけ思ったこともありました。思っただけで実行なんてしていませんし、貴方に知られてからは実行しないことに決めましたから。でも面影があっても中身はまるで違っていました。あの人は兄に似ても似つかなかった。」

「ああ、奴はそういう奴なんだ。上手いこと隠す奴でもあったけどな。まあ、俺も君に対しては奴と同じぐらい酷いことをしてきたけれど。」

「貴方はあの人と違って優しいですよ。貴方はいつも優しかった。私を見る目も触れてくる手も、何もかも優しかった。兄ともあの人とも違う貴方だけれども、寧ろこの関係が続く限り貴方と居られるから、その方が良いと思うようになりました。」

君の言葉にすっと真顔になって見詰めればそっと恥ずかしそうに視線を逸らすものだから、その本心は一体どうなのかと問い質したくなるほどに舞い上がってしまう。

《落ち込ませる気なんて毛頭無かったけれどもその姿は想像もしてなかった落ち込み具合で、この本心を伝えたらどうなるのかと想像すると胸がいっぱいになった。》
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