優しい君に恋をして【完】
見たいと思ってくれるんだ。
音が聴こえなくても......
優の優しさが、すごく嬉しかった。
「ありがとう」
手話をつけてそう言うと、
優は笑って、
私の背中にそっと手をあてて、
先に防音室の中に入れてくれた。
「ここ、座って」
先生は、グランドピアノの右側の壁際にある椅子をポンポンと叩いて、
優に座るように勧めた。
優はペコっと頭を下げてから、椅子に座って、
グランドピアノを見つめた。
もう何年も通っているこの狭い防音室に、
優がいることになんだか慣れない。
そわそわしながらバッグから楽譜を出して、
ピアノの譜面台に置き、ピアノの椅子に座ると、
右側から優の視線をすごく感じて、
ものすごく緊張してきてしまった。
先生はクスクスっと笑いながら左の椅子に座ってきた。
「好きな人の前でピアノを弾くのは緊張するでしょ?」
「うん......」
チラッと右側の優を見ると、
優はいつもの優しい笑顔で、小さく頷いた。
笑ってくれるんだ……
聴こえないとわかっていても、
聞こうとしてくれるんだ……
また楽譜を見ると、そっと鍵盤に指を置き、
少し震える指を抑えながら、弾き始めた。
右側からの優の視線を感じながら、
届かない音の旋律を、
ただただ、
届け......届け......と、
祈るような気持ちで、
奏で続けた。