夕凪コンチェルト
海水に濡れている足を、初めて冷たいものだと認識する。夏真っ盛り陽射しがジリジリと肌を焦がし、潮風がそっと髪を揺らした。
私は、生きている。
ぽっかりと浮いたみたいな場所に不釣り合いな、車のクラクションという音が「私」という現実的存在がここにあることを知らせてくれたみたいだ。
こんなに広い世界の片隅にいて、宇宙から見たら塵にも満たない私だけど、まだ知らぬ明日が在る。
まあ、なるようになるでしょう。何も失くしてなどないわ。ただ「イラナイモノ」を捨てただけ。
立ち上がって、グッと背伸びをしてみる。途端にお腹の虫が鳴った。
どんな時にだって、人間ってお腹は空くものね。そんな自分に少し笑って、私は歩き出した。
帰ってからご飯を作るのも面倒だわね。途中で何か買っていこう。まずは、この空腹と睡眠欲を満たしてやろうではないか。うん、あれこれ考えるのはそれからでいい。
背後から聞こえる波音が、私を明日へ後押しする様に感じた