夕凪コンチェルト


 自分の足跡を強く残すように、砂浜を踏みしめて歩いた。明日には消えてしまうものだとしても、今、私がここに「生きている」という実感を噛みしめたかったから。

 砂浜もあと少しで終わりというところに差し掛かったところで、白い自転車が目に留まった。砂浜へ続く階段を昇ってすぐの所にそれはあった。

 私以外にも、ここに来てた人がいたんだ。「バカヤロー」なんて叫ばなくてよかったわ。とんだ恥をかくとこだった。

 辺りを見回してみると、その自転車の持ち主であろう男の子が、岩の陰で何かしてる。

 あれは、柔道着……?あ、蹴りが出たから空手かな。

 道着の白が、海や空の景色に映えて、とても綺麗だ。

 歳は私より少し下くらいかな。一生懸命な後ろ姿が、何だかいい。夢中になれる何かを持ってる人って、キラキラしてる。 

 私は歩みを止めて、しばしその少年の背中を見つめていた。
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