夕凪コンチェルト


 私が見つめていても、ちっとも気づかないで黙々と練習を続ける空手少年。空手の事はよく分からないけど、今背後から襲われたらどうするのかしら。

 でも「強くなりたい」、そんな気持ちが伝わってくるような後ろ姿。

「頑張れ……」少年に聞こえないように、そっと呟いて立ち去った。半分は自分に言い聞かせてると、分かっていたけれど。

 家に帰ってからの第一声は「あちゃー」だった。開きっぱなしの引き出しからは、衣類がはみ出てるし、正に部屋をひっくり返した状態だ。

 とりあえず、部屋の片付けは後回し。テーブルの上にあった、やりかけのレポートをどかして、さっき買ってきた冷やしうどんを食べる。

 そして、ベッドへ倒れ込むようにダイブした。セミダブルの広いベッドなのに、つい癖で、隅に丸くなって眠る。

 少しの寂しさを抱いて、私は次の日の昼近くまで、ただ眠った。
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