上司のヒミツと私のウソ
 いつもまわりを気遣い、仲間はずれになっている子を見つけると声をかけ、みんなを説得して一緒に遊んだ。誰にでも親切でやさしくて、世話好きなミサコちゃん。私の母の口癖は、「ミサコちゃんみたいになりなさい」だった。


 ミサコちゃんの目に涙があふれる。

 それでも、ミサコちゃんは笑っている。


「彼のことを忘れられないのは……私に与えられた罰だとおもう」





 翌日の朝、私は鞄を持ったまま屋上に直行した。

 空には雲がかかっていて、朝からじめじめと蒸し暑い。今週ははっきりしない空模様が続いている。気温も上がったり下がったりで、上着を着たり着なかったり。企画部では風邪が流行した。


 矢神は少し遅れてやってきた。


 相変わらず、朝から不機嫌きわまりない顔をしている。フェンスで区切られた北側のスペースに私がいるのを見つけると、ますますうっとうしそうな顔をした。


「おはようございます。ひと月前の約束、覚えてますよね」

 私は鼻高々にいった。


 この一か月、私は一本も煙草を吸わなかった。二十三歳のときに煙の味を覚えてから、かれこれ七年間、禁煙が成功したのははじめてのことだ。
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