上司のヒミツと私のウソ
 私の企画書がなかったら、矢神を巻き込むことはなかっただろうに。そもそも私が企画の仕事をやりたいなんておもわなかったら、矢神に近づくことも、付き合うこともなかった。


 わがままで身勝手で不相応な私の望みが、この苦痛のすべての種。いわば自業自得だ。


 そしてなによりも今いちばん深刻なのは、私が矢神の前で自分を偽れなくなってきていることだ。彼が裏だろうと表だろうと関係なく。


 このままでは、だめだ。


「課長も早く切り上げてくださいね。働きすぎは体に毒ですよ」

 私は精一杯上品な笑みを作った。


 前のように──なにも知らなかったころのように、聞き分けのいい大人の女性として彼と接していればいい。以前の自分にもどるだけ。そうすればなにも起こらない。傷ついてみじめなおもいをするようなことは、なにも起こらない。

 パソコンのモニターを見ていた矢神の顔が、こちらを向いた。
< 137 / 663 >

この作品をシェア

pagetop