上司のヒミツと私のウソ
 矢神は私の願いどおり本心を見せてくれただけ。私はそれをむき出しの自分で受け止めただけ。たったそれだけのことが、こんなにも辛いとはおもわなかった。すべて自分が望んだことなのに。


「あとはコピーするだけですね。今日はもう遅いですし、帰っていいですよ」

 矢神の穏やかな声が静かな部屋に響いた。


 執務室に残っているのは私と矢神のふたりだけだった。来週、もう一度開発と打ち合わせを行うことになり、そこで提出する資料を作成するのに手間取ってしまったのだ。


 今日は金曜で、安田もほかの企画部の面々もとっくに帰宅している。既に九時半になっていた。

「はい」

 私は出来上がった資料をチェックするふりをして、矢神と目を合わせるのを避けた。

 彼は右も左もわからない半人前の私をフォローするために、余計な仕事を背負い込むことになり、連日残業を強いられている。やりたくもない企画の担当者に担ぎ上げられて、きっと内心辟易しているのに違いない。
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