上司のヒミツと私のウソ
「華ちゃんはウーロン茶でよかった?」

 はい、と答えると、矢神が底光りする目でじろりと睨んだ。


「この期におよんでまだ猫をかぶる気か」


 一瞬、なんのことをいわれているのかわからずぽかんとした。そして私が気づく前に、律子さんが矢神の頭をこつんと叩いた。

「女の子に対してそういう怖い顔しちゃだめっていつもいってるでしょ。華ちゃんは本当にお酒が飲めないの。この前ひとりで来たときも二度ともウーロン茶だったもの。ね?」


 律子さんがすたすたとテーブルを離れていったあと、矢神はうつむいてなにかぶつぶついったけれど、なにをいったのかは聞こえなかった。顔を上げると、まだ訝しい表情で私を見ている。


「ここにはよく来るのか」

「今日で三回めです」

 偶然ですけど、と私はいった。いってからいいわけじみていることに気づき、急いで付け足す。

「律子さん、課長の高校のときの先生だったそうですね」

 矢神はばつが悪そうな顔をした。
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