上司のヒミツと私のウソ
 屋上には薄闇が漂いはじめていた。

 まだ明るさを残す空は刻々と色を変え、筆で掃いたように薄い雲が帯状にひろがっていた。


 しばらくの間、私たちは並んで暮れ初む空を眺めていた。

 やがて矢神が「もどるか」と掠れた声でいい、二人で屋上をあとにした。




 翌日、私は午後から出勤するために仕度を調えていた。


 矢神が休日返上で仕事をすると聞き、のんきにゴールデンウィークを楽しむ気が失せた。

 もともと旅行などの特別な予定は入れていなかった。一日だけミサコちゃんと会う約束をしていて、ついでに実家に顔を出そうかとおもっていた程度だ。


 五日間も矢神に会えないことを、この期におよんで淋しいなどと感じているわけではない、と自らにいい聞かせる。私自身も、片付けなくてはならない仕事がデスクに山ほど溜まっているのだ。
< 193 / 663 >

この作品をシェア

pagetop