上司のヒミツと私のウソ
 それがどのくらい私を傷つけているか、このひとは知っているのだろうか。

「もう気にしてませんから。お互いに忘れませんか」


 私は動揺を矢神に悟られまいと、懸命に自制心を取りもどした。

 この話題はこれでおしまい。胸には大きなしこりが残ったけれど、私は感情を閉め出した。あたりさわりのない話題に切り替える。


「明日からの連休、課長はどこかへ行かれるんですか?」

「いや、半分は出勤」

「えっ?」


 矢神は当然のような顔をしている。

「それって、私のせいですか?」

 心配して聞くと、矢神はむっとしたように「違う」といった。


 どうやら、休日出勤は矢神にとってさほど特別なことではなさそうだった。

「あの企画は、たぶんうまくいくとおもう」

 唐突にいい、矢神の唇がかすかに弧を描いたように見えた。


 やっぱり今日の矢神はおかしい。
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