上司のヒミツと私のウソ
 彼にうながされて停まっている車の後部座席に乗り込んだ。

 反対側のドアから彼も後部座席に身をすべらせる。

 運転席には地味な顔立ちの中年男性が座っていた。車は静かに動き出した。


 シートに深く身を沈めてくつろいだようすの彼と違い、私は落ち着かない気分でまだ手の中にある名刺を見つめていた。

 病院の所在地はS県になっていた。矢神はS県の出身だ。


「そのようすじゃ、本当になにも聞かされてなかったみたいですね」

 矢神隼人の口調は、どこか面白がっているようにも聞こえる。

 彼が見つめているのに気づいていたけれど、私は目を合わせなかった。


「ええ、なにも」

「薄情な男ですね。早々に別れたのは賢明な判断でしたよ」


 鍵をかけてでも守りたい心の中の大切な場所に、無理やり土足で踏み込まれた気がした。


「なにがいいたいんですか?」

 私はカッとなる気持ちを抑え込み、彼の視線を受け止めた。意外にも、その目は穏やかだった。
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