上司のヒミツと私のウソ
 踏み込むべきではなかったのかもしれない。

 私は迂闊に誘いに乗ったことを後悔しはじめていたけれど、今さら聞かなかったことにはできない。そうするつもりもない。


「あなたは昨日、彩夏さんがしゃべったようなことをいってましたけど、あれは嘘だったんですね」


 矢神隼人は悪びれるようすもなく、くすくすと低く笑った。

「あなたの記憶力には驚かされるな。僕と弟のことも、たった一日で見分けている。聡明で美しい女性は好きですよ」


 それからふと気づいたように、「僕の婚約者に会ったことがあるんですか?」と聞いた。正直に答えるべきか悩んだけれど、嘘をついてもこの人には通用しないと判断した。


「一度だけ」

「へえ」


 彼は再び前を向いて、シートに深く背をあずける。
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