上司のヒミツと私のウソ
「はー。落ち着く」


 三百六十度の空をぐるりと見渡して、やわらかな白い糸を吐く。


 あともう少し。

 四時間後には、私の人生が変わってる。


 その瞬間を想像するだけで、胸が苦しくなった。結婚なんて考えてもみなかったけれど、それも悪くないとおもう。もう三十なんだし。


 そのとき、はじめて気がついた。


 屋上の空間は二分されていた。真ん中を金網のフェンスが縦断する形で、完全に仕切られているのだ。

 その仕切りにはどう見ても隙間ひとつなく、扉のある南側からフェンスの向こうの北側には行けない。それなのに、洗ったモップが北側のフェンスに立てかけてある。


「……?」

 どうやって入ったんだろう、と不思議におもっていると。


「やっぱりね」


 フェンスの向こうの空調設備の陰から、彼女が現れた。

「そんなことだろうとおもった」
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