上司のヒミツと私のウソ
「最寄りの駅までで結構ですから」

「わかりました」

 彼はあっさりうなずき、無理強いはしなかった。


 車は五分ほどで駅に着いた。ドアを開けてさっさと降りようとする私に、彼の言葉が追いかけてくる。

「彼にとってどちらが幸せか、よく考えてみてください。なにかあったら、名刺の裏の携帯電話の番号に連絡を」

 名刺の裏までは見ていなかった。彼の真意を測ろうとして振り向くと、相手は涼しそうな顔で私を見ている。隙がない。

 私はバッグを握りしめ、車から降りた。それから頭を屈めて後部座席に座るひとにいった。


「あなたは、なにもわかっていないんですね」




 ビルの中は静まりかえっていた。

 ほとんどのフロアは電源が落ちているため暗く、空調も作動していない。

 セキュリティの関係でエレベーターも動いていなかった。
< 207 / 663 >

この作品をシェア

pagetop