上司のヒミツと私のウソ
「あ、はい。いえ、なにもないです」

 これではなにがいいたいのかわからない。特別な用もないのに、いたずらに電話したとおもわれたくなかった。


「近江飲料のこと、聞きました」

 耳もとで、矢神がちいさく舌打ちするのが聞こえた。

「誰がしゃべったんだ」

「どうして教えてくれなかったんですか」


 矢神の質問には答えず、逆に問い返した。声はとがめるような色合いを含んでいる。けれど返事は返ってこなかった。

「相模詩乃を使うっていううわさは本当なんですか?」

 しばらく待ったけれど、こちらも返事はない。

「九月の新製品がアーモンドキャラメルティーであることは間違いないんですか?」

 長い沈黙のあと、返ってきた矢神の言葉はひどくそっけないものだった。


「その件は、明日そっちにもどってから報告する」


 明日?


「明後日じゃないんですか」

「予定が変わった。明日の午後にはもどる」
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