上司のヒミツと私のウソ
「ああ、矢神くん。よかった、来てくれて」

 顔を見るなりほっとしたようにそういい、律子さんが視線で示した先には、テーブルに突っ伏して酔いつぶれている髪の長い女がひとり。

「彼女の住んでいるところ、知らないのよ。送っていってあげてくれる?」


 当前のごとく俺を見上げる律子さんの背後で、彼女の夫であり俺の後輩である牧村浩太が、困ったような申し訳なさそうな顔をして立っている。

「彩夏、起きろ」

 乱暴に彩夏の肩を揺する。彩夏は顔を上げ、意味不明な言葉をつぶやきながら、とろんとした目で俺を見た。


「なんだー庸介くんかぁ。どうしたのー」

「どうしたのじゃねえだろ。何杯飲んだんだ、おまえ」

「さあー?」

「弱いくせになにやってんだ」

「へへへ」

 だめだ、話にならない。
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