上司のヒミツと私のウソ
 それは、彼女の父親が、酒に酔うたびに幼い彼女と彼女の母親に暴力を振るっていたからだ。

 彼女の母親は理不尽な仕打ちに耐えかねて、とうとう彩夏が九歳のとき離婚した。そして彩夏が十二歳のとき、物腰のやわらかい穏やかな男性と出会い再婚した。


 彩夏の新しい父親は彼女を本当の娘のように愛し、今でも変わらず愛情を注いでいる。

 だが、酒に酔ったかつての父親が幼い彩夏に残した記憶と傷は、以降の彼女の人生において酒と恐怖を結びつかせることになった。


「どうしたんだ、いったい」


 あれほど酒を毛嫌いしていた彩夏が、自ら正体をなくすほど飲んで酔い潰れるなんて、到底信じがたい。

 子供のころから彩夏は人一倍まじめで、羽目を外すことなど一切なかった。こんな彩夏の姿を見るのは初めてだった。

 おもわず気になってここまで連れてきてしまったのだが、本人がこの状態では話を聞くどころではなさそうだ。


「隼人に迎えに来てもらうけど、いいか?」

 仕方なく、俺は携帯電話を手に取った。
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