上司のヒミツと私のウソ
 もう失うものはなにもない。

 誰もいない。


 なのに。


 誰かを待ってる。

 とても心配してる。


 誰を……?





──課長。

 かすかに声が聞こえた。


 重い靄が流れるうつろな意識の底をかきわけて、明るい方へ向かって昇っていくと、まぶしい光が目に射しこんできた。


 目の前に西森の顔があった。


 晴れ渡った青空を背景にして、こちらを見ている。
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