上司のヒミツと私のウソ
 ふわふわと、長い髪が風に流れて踊っている。


「あの、本間課長が探しておられましたよ」


 夢なのか現実なのかわからなくなり、おもわず手を伸ばした。


 西森の頬はやわらかかった。

 ふれた手のひらからやさしいぬくもりがつたわり、現実だと知って心からほっとした。


 親のことも、仕事のことも、どうでもいいとおもった。


 西森の表情が徐々にこわばるのを見て、はっとする。

 あわてて手を離す。


 パイプ椅子から立ち上がり、急いで昇降口へ向かった。

 あまりにも動揺が激しくて、西森をふり返ることができなかった。


 西森を置き去りにして階段を駆け下りながら、冷静になれと自分にいい聞かせた。

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