上司のヒミツと私のウソ
 心の中は暴風が吹き荒れていて、大混乱を来していたけれど、ここでちょっとでも気を抜こうものなら絶対に安田に悟られる。

 私は吹き荒れる嵐の中に猛然と立って、へらへらと能天気な笑顔を浮かべた。


「駅から走ってきたからねー。一時間も電車が止まっちゃって、ほんとまいったまいった」

「あんたさあ、連絡くらい入れなさいよ。心配するじゃない」


 安田はじっと私の顔を観察する。

 すかさずその顔をみ返す。


「だって携帯わすれたんだもん」

「……まあ、私はどうでもいいけどさ」


 ほんとうにどうでもよさそうに、安田は手もとの資料に目を落とした。


「矢神課長は、心配してたとおもうわよ」

 矢神の名前を出すな!

 目の前でさっきの場面がちかちか瞬く。
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