上司のヒミツと私のウソ
 こっちは朝から混乱しまくっていて、それもこれも矢神のせいだというのに、どうしてあんなに涼しげに笑っていられるのだろう。

 猫かぶりは矢神に負けず劣らず得意だったはずなのに、どうして私は今、こんなにも余裕がないんだろう。


 余裕のなさを表すように、屋上に逃亡する回数が増える。

 なのに、屋上で矢神には一度も会わなかった。


 仕事をしているときも、矢神はまったく私のほうを見ない。午後の間中、一度も目が合うことなく就業時間が過ぎてしまった。


 それならと、ほかの社員が帰ってふたりきりになるまで待とうとした。

 ところが私が化粧室に行っている間に、矢神はとっとと退社してしまった。部下を残して先に帰るなんてめったにしないひとが。


 これってもしかして、避けられてるわけ?

 なんで?


 私は手早く机の上の資料を片付けて、パソコンの電源を切った。まだ仕事をしているほかの社員に声をかけ、バッグを片手に執務室を出る。

 エレベーターホールに矢神がいた。
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