上司のヒミツと私のウソ
 荒谷さんは一瞬目をまるくして私を見たけれど、すぐにころっと笑顔に変わる。

「そうですよね。ごめんなさい。プロジェクト、成功するといいですね」

 ぺこりと頭を下げて立ち去る。


 荒谷さんに悪気がないことはわかっているのに、不用意に当たってしまったことを後悔した。最近の私はちょっとおかしいと自分でもおもう。


 執務室にもどると、矢神が席にもどっていた。

 顔を見たとたんに今朝のことを思い出してしまった。


 意識すまいとしても顔や態度に表れてしまいそうで、妙に緊張する。それでも表向きは平然と仕事をこなした。

 仕事をしながら、それとなく横目で矢神を観察した。


 癪に障るほどいつもどおりだった。

 落ち着き払った態度も、穏やかな低い声も、貴公子みたいなやさしい笑顔も、なにひとつ欠けることなく“表”の矢神だった。

 そういう、いかにも余裕たっぷりな矢神を見ていると、だんだん腹が立ってきた。
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