上司のヒミツと私のウソ
 荒谷さんから「協力してほしい」と頼まれたのは、その次の日の朝だった。それで、矢神にそれとなく付き合っている人がいるかどうか聞こうとしたけれど、できなくて。


「正直になろうとしたんだよね。柄にもなく。それが間違いだった」


 いい先輩のふりをするのは簡単だった。


 今までだって、たとえそれがどんなにくだらないことでも、後輩たちの話には真剣に耳を傾けてきたし、お節介といわれることもたくさんした。


 だから今回も、今までどおりにできるはずだったのに。


「私がほんとうに大人だったら、自分の気持ちよりも彼女の気持ちを優先させてたとおもう。きっと、賢い女は上手に自分の気持ちを隠すのよね」

「まあ、そうかもね」

「私がもっとうまく隠せていたら、こんなことにはならなかった」


 隠せないのではなく、隠したくなかったのだとおもう。いつものように、平気で嘘をつくことができなかった。

 いくら年齢を重ねても、私はちっとも大人になんかなっていない。

 子供のころのまま、今もまだ、自分の正直な気持ちとどう向き合えばいいのかわからず、戸惑ってばかり。
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