上司のヒミツと私のウソ
 前からこんなに精悍な顔つきをしていたっけ……。

 眉間には深いしわが刻まれ、眼差しは険を帯びて鋭い光を宿している。無精髭に覆われた口もとは荒々しい。あの繊細なメタルフレームの眼鏡とやわらかな微笑は、本来の野性的な顔を隠すためのカムフラージュだったのかとおもう。


 最低の男。でも、魅力的なのは認める。しかもこの革ジャン。腹が立つほど似合っている。


「なあ、ここは協定を結ばないか?」


 いきなり横顔がこちらを向いた。


「は?」

「だから協定。会社ではお互いの本性について一切他言しないこと。どうだ?」

「……いいですけど」

「決まり。裏切るなよ」

「課長こそ」

「俺は約束は守る」


 嘘ばっかり。


 いちばん大切な約束、守らなかったくせに。
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