上司のヒミツと私のウソ
「……許せない。あったまきた」

 安田はうんざりしたように溜息をつき、トマトにフォークを突き刺しながら「まーた矢神課長に腹立ててんの?」とあきれ口調でいった。





 矢神とは口をきかないまま、九月の第二週目が終わった。

 土曜日の午後、私は自宅で企画案を考えていた。


 安田とふたりで相談して、来週の定例ミーティングで少なくとも二案の広告企画を提出しようと決めたのだ。

 ところが、いざ書類に起こそうとすると手もとに資料がなにもないことに気づいた。

 企画のヒントになりそうな写真やイラスト、データの類は、すべて例のファイルにまとめてあった。そのファイルはまだ矢神が持っている。


 矢神は、たしか今日は出勤しているはずだ。

 時計を見ると午後六時だった。
< 471 / 663 >

この作品をシェア

pagetop