上司のヒミツと私のウソ
考えてみると、『あすなろ』に顔を出すのはひさしぶりだった。というより、意識して避けていた。あの店で、彩夏さんと鉢合わせてから。
格子の引き戸を開けると、店内は満員でごった返していた。
いつもなら引き戸を開けたとたんに飛んでくる、マスターの「いらっしゃい」という威勢のいい掛け声が聞こえないほどの騒々しさだった。
予想外の混雑ぶりに一瞬入るのをためらったけれど、矢神と約束していることを思い出して中に入った。
律子さんの姿は見えず、アルバイトの女の子もおらず、マスターがカウンターの中と外を行ったり来たりしながらひとりでてんてこ舞いしている。
掛け声が聞こえなかったというのはどうやら間違いで、マスターは私が入ってきたことに気づいてもいないようだ。
「あのう」
おそるおそるカウンターに近づくと、マスターはようやく気づいて「あっ」と短く叫んだ。
「いらっしゃい、ごめんね」
「ものすごく忙しそうですね。律子さんは?」
声を張り上げないと、カウンターの向こうに届かない。
格子の引き戸を開けると、店内は満員でごった返していた。
いつもなら引き戸を開けたとたんに飛んでくる、マスターの「いらっしゃい」という威勢のいい掛け声が聞こえないほどの騒々しさだった。
予想外の混雑ぶりに一瞬入るのをためらったけれど、矢神と約束していることを思い出して中に入った。
律子さんの姿は見えず、アルバイトの女の子もおらず、マスターがカウンターの中と外を行ったり来たりしながらひとりでてんてこ舞いしている。
掛け声が聞こえなかったというのはどうやら間違いで、マスターは私が入ってきたことに気づいてもいないようだ。
「あのう」
おそるおそるカウンターに近づくと、マスターはようやく気づいて「あっ」と短く叫んだ。
「いらっしゃい、ごめんね」
「ものすごく忙しそうですね。律子さんは?」
声を張り上げないと、カウンターの向こうに届かない。