上司のヒミツと私のウソ
「同窓会。アルバイトの子も急に風邪ひいて休んじゃって、この状態。悪いね、席が空くまでそこに座って待っててくれる?」


 私は入口付近に置いてある丸椅子に腰掛けた。

 待っている間にもどんどん客が入ってくる。店内は落ち着くどころか、ますます混雑し始めた。マスターは汗だくでかけずり回っているけれど、収拾がつかなくなっている。


 私は立ち上がって、もう一度カウンター越しにマスターを呼んだ。

「私、手伝いましょうか?」





 午後十時を過ぎたあたりから、ようやく客が減りはじめた。

 全員にラストオーダーを聞いてまわった後、私はカウンターによりかかって深々と溜息をついた。ずっと立ちっぱなしで足が痛い。


「ありがとう、華ちゃん。ほんとうに助かったよ」


 バイト代払うから、と笑うマスターの安堵した顔を見たとたん、私は矢神との約束をすっかり忘れていたことに気づいた。あらためて時計を見ると十一時になろうとしている。


「最低。七時に待ち合わせしてたのに、来なかった」

「あ、そうそう忘れてた」


 マスターがあわてていった。
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