上司のヒミツと私のウソ
 その声は確信に満ちていて、おそるおそる全身の力を抜くと、さっきまで心を占めていた重苦しい不安が溶けて流れていった。


 私は子供のように無防備になり、体をあずけてしまう。

 その場所に身をゆだねると、とても楽になった。

 おだやかな安らぎがひろがっていく。


 シトラスの匂いと、心地いいぬくもり。大きな腕にやさしく抱えられているような、そんな気持ち。だから、きっとこれは夢なのだろう。


 現実でも、こんなふうに簡単に、誰かによりかかることができたらいいのに。

 全身の力を抜いて、なにもかも投げ出して、一瞬でもいいから、誰かに自分のすべてをあずけられたらいいのに。


 その匂いを、そのぬくもりを、そのやさしさを、もっとそばに近づけたくて、引きよせてみた。やわらかな反応があった。


 抱き締められることは、こんなにも気持ちのいいものなのかとおもった。
< 503 / 663 >

この作品をシェア

pagetop