上司のヒミツと私のウソ
「本が、たくさんあるんですね」

 西森の視線が俺の顔から外れたかとおもったら、背後の壁に並んでいる本棚に向けられていた。


「ああ、あれは俺の本じゃない」

「全部?」

「そう。前に一緒に住んでいた叔父の持ち物だ。といっても死んだから、遺品になるな。俺は最近まで一冊も読んでなかったけど」

「どうして?」

「子供の俺に、読め読めって熱心にすすめるわりには、難しくて怪しい本ばかりなんだよな。結局、読んだふりをして読まずに本棚に返してた」


 ハルは、きっとそのことに気づいていたにちがいない。

 なのに性懲りもなく、またしばらくすると違う本を持ってきて、読めと熱心にすすめるのだ。

 そして俺もまた同じように、読んだふりをして棚にもどす。そんなばかなことを、何度も繰り返した。飽きもせず。
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