上司のヒミツと私のウソ
「うだうだ悩んでてもしょうがないやろ。行ってみるか、アトリエ颯(そう)に」

 言葉は勇ましいが、本間の顔はいかにもばつが悪そうである。


 アトリエ颯は、本間とはじめて組んだ『一期一会』のときに、広告デザインを任せたデザイン事務所だった。


 社員は社長の相田健一(あいだけんいち)を含むたった五人という小さな事務所だったが、俺と本間は相田の才能に惚れこんでいた。親会社が細々と広告代理店を経営していたこともあり、『一期一会』の広告全般を任せることになった。


 相田と本間と俺と、三人で何度も打ち合わせを重ねた。

 午前中に始まった打ち合わせが、ときには深夜にまでおよぶことも一度や二度ではなかった。


 これが失敗に終われば後がないという、お互いにぎりぎりの状態だったこともあるのだが、それ以上に広告について相田と語り合うことが楽しくてしょうがなかった。


「俺が行きますよ。明日にでも」

 そういうと、本間は毅然とした顔を向けた。

「いや、俺も一緒に謝る」
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