上司のヒミツと私のウソ
 抱える過去の痛みも、言葉にならない想いも、あのときふたりが共有したものをすべて。

 それはつまり、これ以上進みたくないという断固とした意思表示にほかならない。


「おいこら」


 乱暴な言葉でわれに返る。

 午後一時、本間との打ち合わせのため会議室にいた。目の前で本間が睨んでいる。ぼんやりしていたらしい。


「ええっと、なんでしたっけ」

「そやから、代理店をどうするかっちゅう話や」


 昨日の定例ミーティングで、西森と安田が提案した二案を採用し、広告代理店に持ちかけてみようということになっていた。

 だが、肝心の代理店をどこに頼むかはまだ決まっていない。


 ここ数年は大手の代理店を使っており、『RED』と同時進行で進めているほかのプロジェクトでは早々とそちらで決定している。


 実績に不満があるわけではなく、気心の知れた担当者ともうまくいっている。

 だが、俺と本間が決めかねているのは、もっと別の理由からだった。
< 524 / 663 >

この作品をシェア

pagetop