上司のヒミツと私のウソ
「あれからもう三年たちましたか」
相田健一の言葉に皮肉の音色はなかった。
もうとっくに整理のついている事柄に、気まぐれで少しばかりふれてみたような、そんなやわらかな話し方だった。
年齢は俺とちょうど十歳違う。今は四十三歳になっているはずだった。
健康そうな浅黒い肌に、笑うと皺に埋もれてしまう細くやさしい目。
おだやかな容貌の内側に激しい情熱を秘めていて、ひと交わりがよく、俺などたちうちできないほど人脈が豊富だった。
目の前に座る相田の印象は、三年前となにも変わっていないように見えた。
アトリエ颯の、本や雑誌が壁一面の書棚にびっしり詰めこまれた書庫のような狭い応接室も。数少ない社員たちの家族のような親密さも。
「その節は、私どもの軽率な行動で多大なご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。もっと早くこちらに伺い謝罪すべきでしたのに、三年もの間……」
「その三年は、あなたがここへ来るのに必要な時間だったのでしょう」
こちらの謝罪を途中で遮り、相田は淡々といった。
「私にとっても、もうすんだことですから」