上司のヒミツと私のウソ
 荒谷は強引に俺の隣に座りこみ、ねぇねぇなんの話ですかと目を光らせて食らいついてくる。安田が通りがかった店員にビールを追加した。


「なにも。つまらないなあって話してたのよ」

「なにがつまらないんですか」

「矢神課長がさ、ぜんぜん脅しがいがなくて」


 安田はいけしゃあしゃあという。

 荒谷の好奇心に火がつき、瞳がいっそう輝きを増した。

 俺は荒谷の視線をかわしつつ、冷静なほほえみを安田に返した。


「なんのことですか、安田さん」

「やだなあ、課長ったらしらばっくれて」

「しらばっくれてませんよ。身に覚えがないんです」

「そういうことなら、ここで暴露しましょうか?」

「どうぞ」


 安田がじろりとこちらを睨む。

 追加したビールが運ばれてきた。店員から瓶を受けとり、安田のグラスについでやる。

 黙って見ていた安田は、グラスいっぱいに満たされた泡立つ液体を半分飲み干して、「おいしい」と満足そうに唸った。
< 536 / 663 >

この作品をシェア

pagetop