上司のヒミツと私のウソ
「やたらムードのいいバーに連れていかれるんですよ。ちょっと強めのお酒をすすめられて、飲んでるうちに、なんとなく、いろいろしゃべってもいいかな、って気になっちゃうんですよね。なんていうか……普段は話せないような心の奥のことを話しても、このひとは真剣に聞いてくれそうだなって気持ちになるんです」


 なんでだかよくわかんないんですけどね、と安田は首をかしげる。

 聞いているうちに、胃が痛くなってきた。


「……それで?」

「酔わされて、なしくずしに、落ちちゃう」

「安田も落ちたのか?」

「まさか」


 安田は冷めた顔つきのまま、顎を持ち上げて口の端だけで笑う。


「私が福原さんより先に酔うとおもいます?」

「……おもわない」


 手もとの箸袋を三角に折りたたみながら、安田は「危険だなあ」とつぶやいた。

「西森は、私と違うから」


 午後十時に一次会がお開きになった。
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