上司のヒミツと私のウソ
「いつもいってるでしょう、ほどほどにしておきなさいって。忘れたの? 大きな期待なんか持つと、後でがっかりするんだから」


 いつもの母の口癖だった。

 だけど、その口癖がいつにもまして深く胸に突き刺さった。


「世の中、あんたの思い通りになんかならないんだからね」


 今さらいわれなくても、わかっていたつもりだった。

 それでも、いつの間にか私は、勘違いしてしまっていたのかもしれない。

 仕事も恋も、私があきらめることさえしなければ、いつか望むものが手に入るかもしれない、と。


 その日、安田は定時で帰ってしまい、私は安田が帰った後もしばらく残って仕事をしていた。

 今日中に終わらせなければならない仕事があったわけではない。ただ、何かしていないと不安だった。


 矢神は昼休みが終わったあとに一瞬だけもどってきて、またすぐに谷部長と一緒に開発部のある七階へ行ったきり、帰ってこない。
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