上司のヒミツと私のウソ
 『RED』の開発のことでなにか問題が起きたのかもしれないとおもうと、まったく仕事が手につかなかった。このうえ『RED』まで奪われたら、ほんとうに私にはなにもなくなってしまう。


 壁の時計を見ると午後九時を過ぎていた。そろそろ帰ろうとおもったとき、ふいに「ご苦労さん」と声をかけられる。

 振り向くと福原さんが立っていた。いつの間にか、私たちふたりのほかは、誰もいなくなっていた。


「西森さん、傘持ってる? 雨、降ってきたみたいだけど」

 福原さんは、窓の外を見ながらいった。


「ほんとですか?」

 私は窓を見た。透明の雨粒がはりついている。

 窓に歩みよって暗くなった通りを見下ろすと、傘をさして歩いている人が見える。


「私は置き傘があるんですけど……福原さんは、傘、持ってます?」

「あー、持ってない」

「貸しましょうか? 私、置き傘ふたつ持ってるんです」
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