上司のヒミツと私のウソ
「私は……」

 いいかけたとき、矢神が執務室に入ってきた。

 私は瞬時に後ずさり、福原さんに近づきすぎていたことに気づいた。

 矢神は私たちふたりを見ると、一瞬なにかいいかけて、なにもいわずに自分のデスクに直行する。


「あの、私、お先に失礼します」

 私はデスクの上に置いてあったバッグを抱え、逃げるようにその場を離れた。





 翌日も、朝から雨が降っていた。

 私は昨日福原さんにいわれたことがずっと頭を離れず、一日中ぼんやりしていた。


「今夜、時間ある?」


 安田が声をかけてきたのは、昼休みの外食からもどって席についた直後だった。


「話したいことがあるんだけど」


 あれ以来、安田とは昼休みも別々に過ごしていて、仕事の用件以外では口をきいていない。だから、その誘いには驚くと同時に緊張した。
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