上司のヒミツと私のウソ
 夜、いつもより早めに残業を切り上げ、安田と一緒に会社を出る。考えてみれば、仕事帰りに安田とふたりだけでどこかへ立ちよるのは、今回がはじてだ。

 送別会とか歓迎会とか、社内のイベント以外で安田とプライベートの時間を共有したことは一度もなかった。知り合ってもう半年になるのに。


 てっきりお酒の飲める店へ行くのかとおもったら、向かった先は、たまにランチで利用するカジュアルなイタリアンレストランだった。


 昼間と違い、店内は照明を落として大人っぽい雰囲気を作り上げている。

 席に着き、ふたりで食べる分の単品料理だけを注文した。ふたりともお酒は頼まなかった。


「この前私がいったこと、気にしなくていいから」


 沈黙が広がろうとする前に、安田が口を開いた。


「あんたがしたいようにすればいいよ」


 さっき注文を聞きにきたウェイターがやってきた。

 注文した料理のうちのひとつが、材料を切らしてしまい用意できなくなったと申し訳なさそうに告げる。私がいちばんおいしそうだとおもった料理だ。
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