上司のヒミツと私のウソ
 気がついたら、言葉がこぼれていた。

 矢神は、窓のそばで私を振り返って、「あんなこと?」と不機嫌な顔のまま聞く。そしてもう一度、さっきよりも大きな溜息を深々ともらした。


「やっぱり、信じてないんだな」

「だって」


──彼女がいるのに。


 喉もとまで出かかった言葉を、飲みこむ。

 矢神は窓のそばに立ったまま、じっと私の言葉を待っている。


 私は矢神の視線に耐えられなくなって顔をそらし、床を見つめたまま、時計の音が大きくなるのを聞いていた。

 胸の奥が重いものでふさがって、どんどん苦しくなっていく。

 私はこんなに苦しいのに、矢神はどうして平然としていられるんだろう、とおもった。


 矢神がいった「好き」の意味がわからない。

 本気だっていったけど、もしかしたら私はまた、うまく利用されようとしているだけなのかもしれない。


 もう二度と、矢神の都合で振り回されたり、傷つけられたりしたくない。

 だから、もう。
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