上司のヒミツと私のウソ
 半年前の私と今の私とでは、矢神を見る目はきっと違う。矢神が私の嘘を見抜けるのなら、私にもできるかもしれなかった。

 もし、そうなら──。


「かわいいひとですね」


 あれほどいいたくなかった言葉が、するりと舌をすべった。

 声に出したとたん、有里の美しくなめらかな顔は、頭の中だけでイメージしていたときよりも鮮明な色をともなって浮かび上がった。


 有里に対する重たく汚い感情が、胸を塞ぐ。


「あなたが合鍵を渡した彼女です」


 私を見つめる矢神の顔には、なんのしるしも表れていなかった。

 怒るでも驚くでもなく、とらえどころのない色を目の奥にたたえて、呆然としている。


「作ってもない合鍵をどうやって渡すんだ? つうか、彼女って誰」


 気の抜けたような答えが返ってきた。

 矢神は手にしている煙草を灰皿に置いて、立ち上がる。ゆっくり、私のほうへ近づいてくる。
< 585 / 663 >

この作品をシェア

pagetop