上司のヒミツと私のウソ
「だって……」

 彼女は鍵を持っていた。外から鍵を使ってドアを開け、勝手に入ってきたのだ。


「あれは、俺が管理人にあずけたんだよ」

 黙りこむ私を見て、矢神は当然のごとくいった。


「あの朝、律子さんが来ることになってたから。西森のようすを見に。だから家を出るときに鍵をかけて、一階の管理人室にあずけておいた。律子さんにはそのことを伝えておいたけど、律子さんが来る前に誰かが管理人室で鍵をもらって、部屋に入ったみたいだな」


 矢神はひとりで納得したようにうなずいた。


「で、誰が来たんだ?」


 矢神がすぐそばまで来て私を見下ろす。


 矢神はほんとうに有里のことを知らないのだろうか。


 体の内側から輝く、まぶしいほどの若さ。いくら外側ばかり着飾っても、私にはもうあんな輝きはない。

 きっと裸もきれいなのだろうとおもった。熟れ始めたばかりのつややかな果実のように。

 わざわざ頭の中でふたりを並べてみなくてもいいのに、つい矢神と有里のよりそうところを想像してしまい、気分が悪くなった。
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