上司のヒミツと私のウソ
「あのあと主人にこっぴどく怒られちゃったわ。すぐに叱りとばすのは教師時代の悪い癖だって」

 歩きながら、彼女は照れたように首をすくめる。


「学校の先生、だったんですか?」

「あれ、矢神くんから聞いてない? 私、結婚するまでは高校の教師だったの。矢神くんとうちの主人は、私の教え子です」

「えっ」


 おもわず、じろじろと律子さんの横顔を見つめてしまう。


「主人は矢神くんより二年下なんだけどね。なんかもう、未だに学生時代のまんま。彼を崇拝しちゃってるのよね」

「……」

「あ、ごめんなさい。自己紹介もまだだったわね。私、牧村っていいます。牧村律子(まきむらりつこ)」

「西森です」


 なんで私、矢神の恩師とぺらぺら喋ってるんだろう。


 矢神とは別れた。ヨリがもどることは一生ない。おまけに部下としても認めてもらえていない。信頼されてない。

 信頼できる、なんて、私は誰からもいわれたことがない。
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