上司のヒミツと私のウソ
 お弁当を買うためにコンビニに立ち寄ろうとして、見知らぬ女性が暗がりの中から手を振っているのが見えた。


「こんばんは」


 近づいてきて、彼女がいった。明るい場所で顔を見たとき、「あすなろ」にいた女性だとすぐにわかった。罵りあっていた私と矢神を叱りつけ、店から追い出したひとだ。


「このまえはごめんなさいね」

 顔を覚えていてくれたらしい。すまなそうにちょこんと頭を下げる。私は顔の前で手を振った。

「こちらこそ、お店の中で騒ぎ立ててしまって」

「今帰り? ずいぶん遅いのね。よかったらうちに寄っていかない?」


 温かい居酒屋メニューの数々が、鮮明な食感とともに口の中によみがえる。とたん、ぐううっとお腹が鳴った。


「卵が切れたから買いにきたの。ちょっと待っててくれる」

 彼女は笑いながら、私の返事も聞かずにコンビニに駆け込んでいく。数分後、白いビニール袋を下げて出てくると、「行きましょうか」と笑って促した。


 店の主人夫婦はどうやら矢神の知り合いらしいので、あまり関わり合いたくなかった。あれ以来「あすなろ」には足を運んでいない。
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